第19話 前世の従者は怒っている①
ある日の放課後────俺は、アリシアに一般常識というものを教えるためにアリシアと一緒に都会と呼ぶに相応しい街へやって来ていた。
「アリシア、さっきも言ったが、今日はアリシアに普通の高校生が放課後にどう過ごすのかという体験をしてもらう」
「アレクティス様が仰った言葉は全て覚えており、当然そのお言葉も覚えておりますが……私とて、仮にもこの世界で約16年の間生きているのです、ですからそのようなことが本当に必要なことなのか、アレクティス様のお言葉を疑うわけではありませんが、少々疑問に感じてしまいます」
なるほど、つまりアリシアは少なくとも自らが放課後の過ごし方に関しては常識的だと思っているということか。
「それなら、試しにアリシアが放課後にどう過ごしているのか教えてみてくれ」
「特に面白味のある話ではありませんが……絵画鑑賞にコンサート鑑賞、前世の記憶を取り戻してからはアレクティス様のことを考えながら過ごしたり、アレクティス様のお口に合う紅茶を探したり────」
「もう十分だ、それと……そんな高校生が常識的なわけがないだろ!やっぱりアリシアにはこの世界の常識を徹底的に教えないといけない!」
「そんな……他に何があるというのですか?」
「今日はそれをちゃんと教えるから、俺についてきてくれ」
「わかりました!」
別にアリシアの放課後の過ごし方が常識とかけ離れていても、それは人それぞれだから別に良い……が、そんな生活をしているアリシアが自らのことを常識的だと思っていることは、いずれこの世界の常識との差異で厄介なことになりそうなことが目に見えているため、今のうちにそういったことはアリシアに教えておかないといけない……ということで、俺とアリシアは一緒に街を歩き始める。
「アリシア、今日は────」
「ご主人様!」
俺がそう言いかけた時、俺は女性の声で突然そう声をかけられた。
……ご主人、様?俺のことをご主人様と呼ぶ人物なんて居なかったはずだ。
前世で俺の一番近くで俺のことを支えてくれたアリシアは俺のことをご主人様ではなく名前で呼び、俺は前世でアリシアが嫌がっていたことや、アリシアが優秀でアリシア一人の手で十分足りていたため、他にメイドを雇ったりはしなかった。
……というか、そもそもこの世界での継条輪という人間は何か特別な生まれをしているというわけではないため、ご主人様などと呼ばれるような人間では絶対に無い。
が、俺に向けてご主人様と呼びかけられていることは事実……どういうことだ?
俺は、そんな疑問を抱きながらその声の方へ振り向く────すると。
「メ、メイド!?」
そこには、紛うことなきメイド姿の女性が居た。
あ、あり得ない……この世界に、メイドが存在しているなんて、そんなことは今まで一度も……俺は今、前世の記憶と今世の記憶が混ざって幻覚でも見ているのか?
俺がそんなことを思っている間にも、この目の前のメイドは口を開いて言った。
「ご主人様、今お時間おありですか?」
「時間?えっと────」
「アレクティス様」
「っ……!」
突如隣からアリシアのとても冷たい声が飛んできたためアリシアの方を振り向くと、アリシアはその声色通り目元を暗くしてとても冷たい表情をしていた。
「私の知らぬ間に、私ではない他のメイドを雇っていたのですね……私とてアレクティス様にお仕えしたかったですが、アレクティス様が主従関係を望んでおられないようにお見受けできたので、少なくとも形式的にそういった関係になるのは控えていたのです……が、そうですか……アレクティス様は、私以外の……」
「ご、誤解だ!俺だってどうして突然こんなことを言われたのか────」
「詳細は別の場所でお聞かせいただきますので、今は口をお開きいただかなくとも結構です」
「別の場所って────」
俺がそう言いかけた時、突如俺たちの前に黒のリムジンが現れたかと思えば、アリシアはただ一言「乗ってください」と言ってきた。
……断ることもできたが、間違いなく今断ったら今後に大きなわだかまりを残してしまうことになるため、俺はそれに頷いて黒のリムジンに乗り、アリシアの言う別の場所へ向かうこととなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます