第18話 前世の従者は食べさせたい②
「ま、待て待て!俺にはそういう関係の女性は居ない!」
「……ここで嘘を吐かれたとしても後ほど調べ上げればわかることですが、それでもそう仰りますか?」
「あ、あぁ、もちろんだ」
俺がそう答えると、アリシアは笑顔で言った。
「でしたら良かったです」
俺は、そのアリシアの笑顔を見て一安心する。
アリシアは前世の時から、俺がアリシア以外の女性と関わることを極端に嫌っていたが、前世では立場上俺の方が上で、さらに前世の世界ではどうしても貴族の領主として生きる以上異性……というか、性別に関係なく他の貴族と関わらなくてはいけなかったため、アリシアもなんとか自制心を保てていた。
────だが、この世界では、最悪の場合異性と関わらなくても生きていけてしまうため、そんな状況で俺が異性と関わることはアリシアにとってはどのような理由であったとしても自制できるものではなく、ましてや親密な関係になるなどというのは持っての他だろう。
そして、何よりも……何よりもまずいのが────この世界には魔法が無い、ということだ。
前世では、自らの身がある以上何も武装していなくても魔法という汎用性の利く強力な力を使えた……が、この世界にはそれが無いため、アリシアの怒りを買ってしまった場合────
「……」
俺は、その先のことは考えたくなかったためその先のことを考えるのをやめると、アリシアは再度俺の口元にお肉の挟まれているフォークを差し出して来て言った。
「アレクティス様、あ~んです!お口をお開けになられてください!」
「……あぁ」
もはや断ることなどできないため、俺が口を開けると、アリシアはそのお肉を俺の口の中に運んできたため、俺はそれを食べる。
その瞬間────俺の口元には、美味しさというものが文字通りそのまま広がった……食べ方に問題があることは否めないが、それを差し引いてもとても美味しい……前世の高級食よりも調理法や調味料が豊富になっているからか、前世の高級食よりも美味しく感じられる。
俺がそう感じていると、アリシアが嬉しそうな表情で言った。
「私が食べさせて差し上げたお料理が、アレクティス様のお体の中に……!アレクティス様、お気に召されましたか?」
「あぁ、正直こんなに美味しいとは思わなかった」
「っ……!でしたら、私がアレクティス様がご満足なされるまでどれだけでも食べさせて差し上げます……!アレクティス様、あ~んです!」
その後、俺はアリシアに料理を食べさせてもらうという異色の形でご飯を食べ続けた……この高級食を食べる前は子の食べ方にかなりの抵抗感を示していたはずだが、今ではこの高級食の味が美味しいからということでその食べ方も何とか許容できてしまう……が、俺はその途中で重大なことに気が付いた。
「アリシア」
「はい、なんでしょうか?」
「アリシアは俺に料理を食べさせるだけで、自分は料理を食べていないみたいだが、どうするつもりなんだ?」
「私はアレクティス様に料理を食べさせて差し上げるだけでこの上ない幸せですので、昼食など必要ありません」
「そういうわけにもいかないだろ?ちゃんとご飯を食べてくれ」
「いいえ!私は自らが料理を食べている時間があれば、アレクティス様に料理を食べさせて差し上げたいので結構です!」
……当然だが、このまま俺だけが料理を食べ続けるなんてわけにはいかない。
とは言っても、アリシアは自らで料理を食べるつもりが無いと言う……なら、選択肢は一つしか無い、か。
俺は、新しいフォークを一つとると、それに料理を挟んでアリシアの口元に運んで言った。
「アリシア……口を開けてくれ」
「っ……!?ア、アレクティス様が私に料理を食べさせてくれるのですか!?……い、いえ、そのようなことをアレクティス様にしていただくわけには、いえ、しかし、アレクティス様がこのようなことをしてくださる機会など今後……」
「これでも嫌だと言うんだったらそれでも────」
「い、いえ!お願いします!」
アリシアは慌てた様子でそう言うと、小さく口を開けた。
そして、俺がその口の中に料理を運ぶと、アリシアは笑顔で言った。
「美味しいです、アレクティス様……あぁ、このような時間をまた共に過ごせることが、私は嬉しくて堪りません」
「……そうだな、アリシア」
それから、しばらくの間俺はどこか懐かしい雰囲気を感じながらアリシアに料理を食べさせ続けると、昼休みの終わりが近づいてきたため俺たちは教室に戻った……なお、たくさん並べられていた料理たちは、黒のスーツを着た男性がしっかりと料理用の冷蔵トラックというものに運んでくれたらしく、俺は改めてアリシアの家のすごさを感じた。
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