第17話 前世の従者は食べさせたい①

 ────数刻前。

 昼休みの時間となったので、俺は席を立って教室から出ようとしていた……理由は、一人でご飯を食べたいから────ではなく、純粋に今日の朝はお弁当を作れなかったため、購買でご飯を買いに行くためだ。

 そう思い至って教室から出ようとしていた俺だった……が、そんな俺と教室のドアの間を塞ぐようにアリシアが俺の前に立つと言った。


「アレクティス様、どちらへ向かわれるのですか?」

「あぁ、今日はお弁当を作れなかったから、ちょっと購買に昼ご飯を買いに行こうとしてたんだ」

「でしたら!是非このアリシアにお任せください!私が、そのアレクティス様の問題をご解決させていただくことをお約束いたします!」


 解決……?

 ……アリシアが何をする気なのかはわからないが、アリシアはとてもやる気に満ちているようだしここは一度アリシアに任せてみることにしよう。


「わかった、アリシアに任せる」

「っ……!では、これより私についてきてください!」

「あぁ、そうしよう」


 俺がそう返すと、アリシアは頬を赤く染めて自らの顔に自らの両手を添えながら嬉しそうな表情と甘い声音で言った。


「あぁ、アレクティス様が、私に任せると……あぁ……アレクティス様が私のことを頼ってくださる、これ以上の幸せなどこの世界に存在するのでしょうか……」


 アリシアはその調子で一人何かを呟き始めたが、教室というクラスメイト達が行き交う場所でそんなことを続けていては俺たちが変な目で見られてしまう可能性が高いため、俺はアリシアに言う。


「アリシア、教室のドアの前で立ち話するのは迷惑になるし、昼休みだってそこまで長いわけじゃないからどこかへ行くならそろそろ行こう」

「っ!失礼いたしました!アレクティス様の仰る通りかと存じますので、早速これより目的地へ向かいたいと思います」


 アリシアは俺に一度頭を下げると、早速教室から出て歩き始めたため、俺もそのアリシアの後ろをついて行く形で教室から出て歩き始める。

 一体どこに向かっているのか、見当も付かないが俺がそのままアリシアの後ろを歩いていると────


「ここです!」


 アリシアの目的地へ到着したらしい……が。


「ここは……中庭か?」

「はい!その通りです!」


 中庭にあるのはベンチと噴水……あとは自販機ぐらいなものだったと思うが、一体ここで何をするというんだろうか。

 俺がそんなことを思いながらアリシアと一緒に中庭のベンチに足を進めると────そこには、たくさんの高級食と思しき料理が並べられている台の取っ手を持っている黒のスーツを着た男性の姿があった。


「ご苦労様です、もう下がっていただいても構いません」

「はっ」


 アリシアがそう伝えると、その黒のスーツを着た男性はアリシアに一度頭を下げると、すぐにこの場を去って行った。

 そして、俺はアリシアに促されるがままにアリシアと一緒にそのベンチに座ると────アリシアが、目の前に広げられたたくさんの料理を俺に見せながら言った。


「さぁ、アレクティス様!思う存分お料理をお食べになられてください!」

「お、思う存分なんて食べられるわけないだろ!フレンチにイタリアン、それに……この世界の高級食には詳しくないが、このお肉は多分ローストビーフだろ?」

「はい!」

「はい!じゃない!……アリシアの気持ちは嬉しいが、こんなものを渡されてもそうそう簡単に口に付けることなんてできない」

「……つまり、アレクティス様はご自身の手でこれらの料理をお食べになるおつもりはない、ということですか?」

「ご自身の手……?まぁ、そうだ……こんな高そうなもの────」


 俺がそう言いかけると、アリシアはその料理のお皿とフォークを手に取ると、俺の口元にその料理を運んできて言った。


「アレクティス様、あ〜んです!お食べになられてください!」

「は、はぁ!?」


 俺は、すぐに周りへ視線を送って言う。


「ア、アリシア……中庭は動線としてもよく使われる場所だから人目があるんだ、そんな人目がある中でこんな────」

「私は人目があろうと無かろうと気になりません!アレクティス様もそのようなことお気にせず────」


 アリシアは、そう言いかけたところで突如言葉を止めると、少し間を空けてから目元を暗くして冷たい声音で聞いてきた。


「それとも、アレクティス様には人目を気にしないといけない事情などがあるのでしょうか?例えば……この世界でもうすでに私以外の女性と親密な関係を結んでいる、など────もしそうであれば、アレクティス様には詳細なお話をお聞かせいただかなくてはいけませんね」

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