第16話 前世の従者は入りたい

 38階のワンフロアという、最初入った時は絶対に落ち着けないだろうと思った部屋だったが、アリシアと一緒というだけで俺はそんな空間の中でも不思議と落ち着くことができ、夕方ごろまでアリシアと一緒に過ごすと、俺とアリシアはそのホテルから出て一緒にリムジンに乗った。


「……相変わらずだが、リムジンはやっぱり慣れないな」

「これからはアレクティス様が乗り慣れるほどに私と共にお出かけなさることになるのですから、時間の問題です」

「そういうものか」

「はい、そういうものです!」


 そう言うと、アリシアは地図が表示されている一枚のモニターを俺に差し出してきて言った。


「アレクティス様、これよりアレクティス様のことをご自宅までお送りさせていただきたいので、こちらの地図でアレクティス様のご自宅となる場所を二回ほどタップしていただいてもよろしいでしょうか?」

「送ってもらって良いのか?」

「もちろんです!」

「ありがとう、そういうことなら……」


 俺は、地図をスクロールして自らの家が映るようにすると、その家を二回タップした────その直後、リムジンが動き始めた。


「すごいシステムだな」

「口頭だと間違いが発生する可能性が高まりますから、こちらの方がより確実性が増すのです」

「なるほど」


 その後、俺とアリシアが少し話していると、あっという間にそのリムジンは目的地である俺の家の前へ到着した。

 そして、俺とアリシアが一緒にリムジンから降りると、俺はアリシアに言った。


「アリシア、わざわざ送ってくれてありがとう」

「このくらい何ということもありません」

「そうか……じゃあ、また明日学校でな」


 そう言うと、俺はアリシアに背を向けて家のドアに歩き出した。

 そして、鍵を取り出したところで────俺は背後から気配が消えていないと感じて咄嗟に後ろを振り向くと、アリシアが俺の背後についてきていた。


「……どうして俺について来てるんだ?」

「せっかくですので、アレクティス様のご自宅の中を拝見、場合によってはお掃除などをさせていただこうかと思いまして」


 前世であれば、従者のアリシアが主人の俺の屋敷の中を掃除などをするというのはごく自然なことで、むしろそれが従者としてのアリシアの仕事だった……が。


「いくらアリシアとは言っても、継条輪としての記憶も色濃く残っている今の俺が異性のことを家に上げるのは少し抵抗感があるな」

「そんな……!前世は毎日同じ屋根の下で夜を共にしたではありませんか!」

「誤解を招きそうな言い方をするな!同じ屋根の下って言っても前世の屋敷は広かったし、何より別の部屋だったからそういう感覚でも無かっただろ!」

「お願いしますアレクティス様!私はどうしてもアレクティス様にご奉仕させていただきたいのです!!」

「今日はもう十分してもらったから結構だ!!また今度にしてくれ!!」


 俺が大きな声でそう言うと、アリシアは目を輝かせて言った。


「また今度!?でしたら、後日アレクティス様のご自宅の中へ入らせていただいてもよろしいのですね!?」

「え?ち、違う、今のは────」

「でしたら、私はその時を楽しみにお待ちさせていただこうかと思います……ではアレクティス様、また明日学校にてお会いいたしましょう」

「ちょっと待────」


 俺の言葉を全く聞かずに、アリシアは楽しそうな声で何かを呟きながらリムジンに乗ると俺の家の前から去って行ってしまった。


「……本当に、アリシアはアリシアだな」


 俺は、前世と何も変わらないアリシアのことを見て、どこか────口角を少し上げて、嬉しく感じながらそう呟いた……そして、その翌日の昼時。


「アレクティス様、あ〜んです!お食べになられてください!」


 俺は人目のある中庭で、アリシアにあ〜んをされていた。

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