第15話 前世の従者はご奉仕する③
しばらくしてアリシアが落ち着いてから、俺は続けて前世ぶりにアリシアの紅茶を飲ませてもらうこととなったので、俺はとても眺めの良い場所に置いてある椅子に座った……眺めの良い場所と聞いて大体の人が想像するのは、10階台のマンションからの景色や街のビルの屋上からの景色だろうが、俺が今居るのは38階。
そこには、俺が今まで見たことのないような景色が広がっていた。
「失礼します」
俺がそんなことを感じていると、アリシアが紅茶を淹れるのに必要なものを乗せたティートローリーを俺の横へ運んできた。
「ティートローリーか、懐かしいな……前世ではよく見たが、この世界で見たのは初めてだ」
「前世よりも技術の発達している今世でも、アンティークなものという売りで使っているところもあるそうです……最も、前世の記憶を思い出した今となっては、私はこちらの方が扱いやすいと感じますが」
このティートローリーを、この世界でアリシアほど実用的な意味合いを持って使っている人間はほとんど居ないだろう。
アリシアは、そのままカップや茶葉を取り出し準備を進める。
────本当に、懐かしいな。
俺が、前世でアリシアが俺のために紅茶を淹れる準備をしてくれている時のことと今のアリシアの動きを重ねてそんなことを思っていると、アリシアは諸々の準備を終えてティーポットを綺麗に持った。
そして、紅茶をティーカップへ注ぐ。
前世で何度も見た、アリシアの紅茶の淹れ方……とても高いところから淹れているのに、紅茶が一滴も弾けない。
「アレクティス様、お待たせいたしました」
俺がそのアリシアの紅茶の淹れ方に見惚れていると、アリシアは俺の横にあるテーブルにその紅茶の入ったティーカップを置いてそう言った。
「あぁ、いただこう」
そして、俺はその紅茶の香りを堪能してから、その紅茶を口で味わい喉に通した────その瞬間。
「っ……」
俺は、前世を五感で感じ取った。
記憶でも何でもなく、文字通り五感で……
「この、茶葉は……」
「はい、アレクティス様が前世で気に入られていた茶葉と完全に同じもの……と言えるかどうかは世界も時代も違うのでわかりませんが、少なくとも限りなく酷似しているものです」
「思い出すな、色々と……」
前世、と文字にするとたった二文字だが、その二文字の中にはアレクティスという一人の人間の一生の命が含まれている。
前世で俺は成人を迎えることができないほどの若さで亡くなってしまったが、もしあのまま前世で生きることができていたら、俺は前世でどんな人生を送っていたんだろう。
侯爵家の領主、アレクティスとして領民の人たちを幸せにして、他にも様々なことに貢献し、アリシアのことも……
「アレクティス、様……?」
俺がそんなことを考えていると、隣に居るアリシアが俺の方を見ながら不安そうな表情をしていた。
「どうした?アリシア」
「いえ、申し訳ありません……アレクティス様が、お涙を、流されていたので……」
「涙……?」
アリシアからそう聞かされた俺は、自らの頬に触れる……すると、そこにはアリシアの言う通り、確かに涙が伝っていた。
「そうか……もしかしたら、色々と思い出したからかもしれないな、前世の……俺の、失ったたくさんのもののことを……」
俺がそう言うと、アリシアは俺のことを後ろから抱きしめてきて大きな声で言った。
「アレクティス様!アリシアはここにおります!前世も、今世も関係なく、今までもこれからも、私はずっとアレクティス様のお傍でアレクティス様にお仕えさせていただきます!」
「っ……!そうだな……アリシアは、居てくれるんだったな」
俺は、俺のことを抱きしめ俺の前に腕を回しているアリシアの腕に触れて、そこには確かにアリシアが居ることを実感する。
俺がたくさんのものを失ってしまったのは確かだが、この温もりだけで、俺は────
◇
この物語の連載が始まってから、二週間が経過しました!
この物語をここまで読んで、応援してくださり本当にありがとうございます!
この二週間でたくさんのいいねや☆、応援コメントなどをいただき本当に嬉しく思っています!この物語を好きだと思ってくださっている方の中で、まだいいねや☆、応援コメントなどをしたことが無いという方は是非気軽にそれらのことをしていただけると嬉しいです!
作者は今後もこの物語を楽しく描かせていただきますので、この物語を読んでくださっているあなたも是非この物語を最後までお楽しみください!
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