第13話 前世の従者はご奉仕する①
どうして俺が前世で誰とも婚約しなかったのか……アリシアがそんな疑問を抱いてしまうのも無理はない。
前世で俺は侯爵の家、前世の貴族社会では王族を除いて最高の地位に当たる公爵に次ぐ位の家に生まれた。
そして、自分で言うのもなんだが俺は勉学、魔法ともにかなり扱えたため、アリシアの言う通りたくさんの女性から婚約の話をもらった……が、またもアリシアの言う通り、俺はそれら全ての話を断った。
当然、断った理由を「俺に相応しい相手が居なかったから」なんて言うつもりはない……公爵の人からもかなりの数婚約の話をもらっていたので、どちらかと言えば俺が相応しくないケースもあった。
それでも、俺がそれらの婚約の話を断り続けたのは────
「……」
俺は目の前のアリシアのことを改めて視界に映す。
そして、アリシアのことを少しの間視界に映してから一度目を閉じ再度アリシアのことを見て俺はアリシアからの問いに答えることにした。
「どうして俺が前世で婚約者を選ばなかったのかは────秘密だ」
「秘密……!?ど、どうして秘密にするのですか?」
「それも秘密だ」
「っ!」
その後、アリシアは何度か同じことを聞いてきたが、俺は秘密の一点張りで押し通した────アリシアにだけは、この理由を答えるわけにはいかない。
俺に秘密の一点張りで押し通されたアリシアは、諦めたように肩を竦めると切り替えるように言った。
「その話は今度聞かせていただくことにするので、ひとまず今は忘れることにします!アレクティス様!そろそろご到着しますよ!」
「あぁ」
アリシアがそう言うと、その数秒後にリムジンは動きを止めたため、俺とアリシアは一緒にそのリムジンから降りた。
すると────目の前には、信じられないほど高いビルがあった。
「……アリシア?もしかして、俺たちは今からこのビルの中に入るのか?」
俺がそう聞くと、アリシアは笑顔で答える。
「はい!こちらのビル……正確には高層ホテルは38階建てとなっていますが、アレクティス様へご奉仕させていただくためにしっかりと最上階の38階を押さえさせていただきました!」
「さ、38!?」
38階もある建物なんて普通に考えて早々入れるものじゃないし、入ることがあったとしてもそんなに上まで行くことは無い……それなのに、今回はその最上階の38階に?それも、俺たち二人で……?
「ア、アリシア?やっぱり、ここまでの奉仕は少し大きすぎるような気がするから、もう少し簡単なものに────」
「何を仰っているのですか!本来であればもっと高級な場所へお連れしたい気持ちをを抑えて、できるだけ早くアレクティス様にご奉仕させていただきたいという思い一心でこの場所になったのです!ですから、アレクティス様には是非私からのご奉仕をさせていただきたく思います!」
……アリシアがこのくらいのことをすることは簡単に予測が付いたはずだが、いざこんなにも高いビル、それもその最上階に行くということになると少し怖気づいてしまうな。
だが、おそらくもう料金も支払ってしまっているだろうし、せっかくアリシアが俺のためにそこまでしてくれたのにそれに対して怖気づいたなんて理由で断ることはできない。
「……わかった、行こう」
「っ!ありがとうございます!」
俺がそう返事をすると、アリシアは明るい声でそう言った……そして、俺たちはその高層ホテルの中へ入ると、アリシアがフロントの人とやり取りを終えた後でエレベーターに乗って38階のボタンを押した。
すると、エレベーターが上昇する。
「……エントランスからこのエレベーターまで、本当に高級感がすごいな」
「この程度でよろしければアレクティス様のことを毎日お連れすることも可能ですので、いつでも私にお申し付けください」
「毎日!?」
「はい」
俺は、笑顔でそう返してきたアリシアに対して驚愕しながらも、それから数十秒後にはエレベーターが38階に到着した。
エレベーターから降りると、そのエレベーターの目の前に一つのドアがある。
すると、アリシアはカードキーをドアの横にある機器に差し込みながら言った。
「こちらの階層はワンフロアで、他の号室はありませんのでこの階層には今本当に私とアレクティス様しか居ません」
「……なるほど」
今まではアリシアと二人で話すと言っても、学校やカフェなど、本当の意味で二人になれたことはほとんど無いと言っても良いほどだったが、今日はそうでは無いということか。
ドアの鍵が開いたらしく、アリシアがドアを開いてくれたため俺がそのまま部屋の中に入ると、アリシアも俺の後ろから部屋の中に入ってきた……というか。
「部屋っていうか……本当に家っていう感じっていうか、フロアって感じだな」
「はい、ワンフロアですから」
広さは言うまでも無いが、置かれているインテリアの質やそれぞれに部屋があると思われるドアの数が尋常ではない。
ひとまず、俺は一度落ち着くために目の前に見えていたリビングらしき場所にあるソファに座った────その直後、アリシアは俺に距離を縮めてくると、俺の着ているシャツのボタンに手をかけて言った。
「では、アレクティス様……ご奉仕、させていただきます」
……え?
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