第12話 前世の従者の気になること

 ────数日後の日曜日。

 俺は、アリシアからのご奉仕というものを受けるために、アリシアとの待ち合わせ場所へ向かっていた……そして、アリシアとの待ち合わせ場所が見えてくると、そこには周りからの視線を集めているアリシアの姿があった。

 そして、俺の方を向いたアリシアも俺に気づいたらしく嬉しそうな表情を見せると────俺の方に小走りでやって来た。


「アレクティス様!おはようございます!」

「おはよう、アリシア……そういう服、確かオフショルダーって言うんだったか?アリシアによく似合ってるな」

「あ、ありがとうございます!アレクティス様も、そちらの私服がとてもよくお似合いです!」


 アリシアは笑顔でそう言うと、続けて言った。


「この世界の服という文化は、前世の世界と比べると本当に種類が豊富で前世の記憶を取り戻してからはとても感慨深い気持ちでいっぱいです」

「俺もそんな感じだ」


 俺は一応前世では貴族として生を受けていたから、着る服というのは基本的に似た系統のものばかりで、様々な服を楽しむことなんてできなかった……が、この世界では思う存分に服を楽しむことができる。

 まだ前世の記憶を取り戻してから日が浅く、服を楽しむ日を作れてはいないが、いずれはそういう日も作りたいと考えている。


「それにしても……周りからの視線がすごいな」


 俺がそんなことを考えている間にも絶えない視線に俺がそう呟くと、アリシアが頷いて言った。


「はい、たくさんの方がアレクティス様の容姿に目を奪われているようです……アレクティス様の容姿に目を奪われてしまうのは仕方のないことですが、やはり私以外の女性がアレクティス様に対してそういった視線を送るというのは少々不快ですね」


 俺に視線……?

 ……確かに少しはあるような気がするが、ほとんどは────


「俺が言ったのは俺に対する視線じゃなくて、アリシアに対する────」

「アレクティス様、いち早くこの場から退散致しましょう、アレクティス様が欲望の目にさらされることなど耐えられません!」

「……わかった」


 隣同士で居る以上、視線の判別なんてあくまでも個人個人の感覚でしかわからないためここでそのことを話しても意味は無いと判断した俺は、アリシアに連れられる形で道路へ出た────すると、そこには見覚えのある黒いリムジンが置いてあり、俺たちがやってくるとそのリムジンのドアが開いた。


「乗りましょう、アレクティス様」

「え!?お、俺がリムジンに……?」

「もちろんです!」


 俺は、動揺しながらもアリシアに連れられる形でリムジンに乗ると、俺たち二人がリムジンに乗ったところでそのリムジンは進み始めた。


「これでひとまずはアレクティス様が欲望の視線を向けられることはありませんね」

「……」


 リムジン……当然この世界で普通の高校生の俺が今まで乗る機会なんてあるはずもなく今初めて乗るが、本当にすごいな。

 ソファのような椅子にテーブルに冷蔵庫、モニター……


「本当にすごい車だな」


 俺が思った感想をそのまま伝えると、アリシアは言った。


「そうなのでしょうか……?私はこの世界に来てからこの車で移動するのが普通でしたのであまりそういった感覚はありませんでした……が、アレクティス様に満足していただけたのでしたら良かったです!これからは、何か欲しいものがあれば私にお申し付けください!アレクティス様のためであれば、私はこの身を懸けて尽力させていただきます!……と言いたいところですが、一つだけご協力できないことがあります」


 途中まで元気に話していたアリシアだったが、最後の部分だけ元気を無くした声で言うと、アリシアは続けて言う。


「アレクティス様、前世でもあったことですが、この世界にもどうやら女遊びという下劣な概念が存在するようです……万が一アレクティス様がそのようなことをしたいと仰られた場合、私はアレクティス様にご協力しないだけでなく、少し強引になってしまったとしても────」

「そんなことになるわけがないだろ?俺は、前世でも最後までそういったことは誰ともしなかったんだ」


 俺がアリシアの言葉を遮って前世のことを例として言葉に説得力を持たせると、アリシアはどこか悲しそうに言った。


「そう、でしたね……最後まで……」


 ────まずい、変なことを思い出させてしまったか。

 俺は、すぐに今の自らの発言を悔いて言う。


「変なことを言って悪い、忘れてくれ」


 俺がそう言うと、アリシアは少し間を空けてから言った。


「アレクティス様……実は、私は前世のことで気になっていることがあるのです」

「……なんだ?」

「アレクティス様は、そのお人柄や優秀さから、私以外にもたくさんの女性から愛を向けられていました……婚約の申し出が届いたことも一度や二度でなく、数十回、下手をすれば数百回にも及ぶほどです」


 そう前置きをすると、アリシアは俺の目を見て聞いてきた。


「それなのに────どうしてアレクティス様は、誰ともご婚約なされなかったのですか?」

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