第11話 前世の従者は一つ言いたい
「あぁ、あの紅茶は本当に美味し────」
しばらくの間アリシアと話していると────
「こら!継条くん!何お客さんと長話してるの!」
「っ!」
先輩が、俺の居るカウンターまでやって来てアリシアと話している俺の言葉を遮るように大きな声で言った。
俺は、突然大きな声で名前を呼ばれたことに動揺して先輩の方を振り向いて言う。
「す、すみません先輩!」
仕事中だと言うのに今は客であるアリシアと長話をしてしまったことに素直に謝罪すると、目の前のカウンター席に座っているアリシアが目元を暗くしながら先輩には聞こえないほど小さな声で呟いた。
「アレクティス様の言葉を遮るとは……先ほど、そして現在の馴れ馴れしい態度と言い、この方は本当に一度────」
アリシアが明らかに何か物騒な単語を発そうとした時、先輩が言った。
「もう〜!確かに今日継条くんはカウンター担当でカウンターにお客さんが一人しか居なくて、他の通常席もお客さん少ないから暇なのはわかるけど、だからって連れてきた彼女ちゃんとイチャイチャ長話されたら一緒に仕事してる身としては色々と反応に困っちゃうよ〜」
「……え?彼、女……?」
俺は、突然飛び出た衝撃ワードに文字通り衝撃を隠せないでいると、先輩が言った。
「あれ、違った?傍から見ててめちゃくちゃ楽しそうに話してたから、そういう関係なのかな〜って思ったんだけど」
「お、俺たちはそういう関係じゃありません!」
「そうだったんだ〜」
俺と先輩がそんなやり取りをしていると、そのやり取りを横で見ていたアリシアは一度口を閉じてから再度口を開いてから────
「私とアレクティス様のことを恋人だと発言するとは、どうやら彼女はなかなか見る目があるようですね……」
と呟き、一口紅茶を飲んでとても上機嫌そうにしていた。
先ほどまであんなにも先輩に対して敵意を抱いていたはずなのに、その発言一つでここまで態度が変わるとは……
俺がアリシアの俺に対する愛、または愛でない何かに驚いていると、先輩が俺に対して言った。
「可愛い女の子のお友達と話すのも良いけど、もしこのカウンター席に他のお客さんが来たらちゃんとそのお客さんに接客もするんだよ?」
「は、はい!」
俺がそう返事をすると、先輩は笑顔で俺の肩を二回優しくタッチすると、自らの担当場へ戻って行った。
「あの女性、またもアレクティス様に馴れ馴れしく……ですが、私とアレクティス様のことを恋人だと……いえ、そうだとしても────」
その後、アリシアはしばらくの間一人で何かを呟き続けた。
そして、俺のこのバイトはあと二時間ほど続くため俺はアリシアに「見せたいものは見せれたし、待ってもらうのも悪いからもう帰ってくれていい」と伝えたが、アリシアは「いえ!ご主人様の頑張られているお姿を見ていたいです!」と言うと、結局俺のバイト時間が終わるまで残り続けた。
「────継条くん、なんか今日紅茶の淹れ方すごくかっこよくなってたね~!家とかで練習したの?」
バイト時間が終わり、制服に着替え終えた俺に先輩がそう聞いてきた。
「そんなところです」
「へ~!常連のお爺さんも気に入ってくれてたから良かったね~!今日もお疲れ様!またよろしくね~!」
「はい、よろしくお願いします……では、お先に失礼します」
そう言って頭を下げると、俺はカウンターから出てカウンター席に座っているアリシアに声を掛ける。
「アリシア、行こう」
「はい!」
すると、アリシアは元気にそう返事をしてくれて俺と一緒に喫茶店を後にした……そして、歩きながらアリシアは言う。
「アレクティス様……確かに本日行われていたアレクティス様のお仕事は、きっとアレクティス様にとって楽しいものなのだろうということが見てわかりました……が、一つよろしいでしょうか」
「なんだ?」
俺がアリシアの言いたい一つのことというのを聞くためにそう聞くと、アリシアは言葉に勢いを持たせて言った。
「私は、どうしてもアレクティス様がご労働なされているということに納得がいきません!加えて、アレクティス様にあれほど馴れ馴れしく接する女性が居るということもです!それに、本日はそのようなことはありませんでしたが、もしアレクティス様のご担当なされる場所へ女性がいらっしゃれば、その時はアレクティス様がその女性へ私の淹れ方で紅茶などを注ぐのですよね!?そのようなことは私にとって許容しがたいことであるということをアレクティス様にご理解していただきたいのです!!」
一つどころか三つ四つぐらい言われたような気をするな……それにしても、アリシアの紅茶の淹れ方で紅茶……そうだ。
「話は変わるが、久しぶり……というか、前世ぶりにアリシアの淹れてくれた紅茶が飲みたいな」
俺が、ふと思ったことをそのまま言葉にすると、アリシアは大きな声で言った。
「っ!?い、今、私の淹れた紅茶を飲みたいと仰ってくださいましたか!?」
俺は、そのアリシアの言葉に対して頷いて返す。
「あぁ、言った……アリシアは、この世界でも紅茶を淹れることができるのか?」
「も、もちろんです!アレクティス様に相応しい、最高級の品質の紅茶を淹れることをお約束いたします!」
アリシアは、嬉しそうな表情でそう言った。
「そうか、それなら楽しみにして────」
「では、早速相応しい場を用意させていただきますね!高層ビルの最上階のワンフロアに、最高級の茶葉を取り寄せ、それから……あぁ、アレクティス様のためにこれほどたくさんのすべきことがあると考えるだけで、私は胸が幸せになります」
「ア、アリシア?俺はそこまでしろとは言って────」
「アレクティス様!アレクティス様のために、私は全身全霊でアレクティス様へご奉仕させていただきますので、お楽しみにしておいてください!!」
「……あぁ」
こんなにもキラキラとした目に楽しそうな表情、そして真っ直ぐな気持ちで前世の従者からそう言われたらそれを無下にすることもできないため、俺はそのアリシアからのご奉仕というものを受けることにした。
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