第8話 前世の従者は嫉妬深い①
ひとまず最低限話しておきたいことを話すことのできた俺とアリシアは、そろそろ暗くなってくる時間帯のためカフェから出た。
「アリシアの家はどっち方面だ?」
俺がそう聞くと、アリシアは俺の家とは反対方向を指さして言った。
「私はあちらです」
「そうか……俺はあっちだから、今日はここで解散だな……まだ明るいから大丈夫だと思うが、気を付けてな」
アリシアに背を向けてそう言うと、俺は家に向けて歩き出した。
今日は色々なことがあったが、それもようやく落ち着きそうだ……この帰り道の間に、歩きながら頭の中を整理することにしよう。
そう思い帰り道を歩き始めた俺だったが────
「……」
「……」
何故か、アリシアが当然のように俺の後ろについて来ていたため、俺は一度足を止めるとアリシアに言う。
「アリシア?さっき解散だと言ったはずだが、どうしてついてきてるんだ?」
俺がそう聞くと、アリシアが言った。
「私はそれについて一言も同意していません!」
「同意……は確かにしてなかったが、それならもしかしてこのまま俺の家までついてくる気なのか?」
「はい!」
そこまで堂々と返事をするようなことなのかはわからないが、こうなったアリシアのことを止めるのはかなり難しいと思われるため俺はそのアリシアの行動を承認することにしてアリシアと一緒に俺の家へと帰った。
そして────俺の家へ到着すると、アリシアがその家を見て言った。
「ここがアレクティス様の、この世界でのお家なのですね……」
「そうだ……前世の屋敷と比べると比べるまでもないほど狭いが、家というものは広さだけでないことがこの家で暮らしているよくわかる」
「なるほど……私も本日からアレクティス様と一緒にこの家で────」
「暮らさないからな」
「……本日、アレクティス様の家へお泊りに────」
「来ないからな」
俺が先回りするようにそう言うと、アリシアは頬を膨らませて言った。
「アレクティス様!前世ではずっと同じ屋根の下で生活していたではありませんか!それなのにどうして突然そのような意地悪を仰るのですか!」
「前世と今世では異性と同じ屋根の下で暮らす意味が大きく変わって来るんだ!その辺りの常識も今度ちゃんと教えるから、とりあえず今日は帰ってくれ」
「……本当であればアレクティス様と生活を共にさせていただきたいところではありますが、仕方ありませんね」
そう言うと、アリシアはスマホでどこかへ電話を掛けた。
……そして、その数十秒後、エンジン音が聞こえたかと思ったら────
「リ、リムジン!?」
車に詳しくない俺でも知っている高級車である、黒のリムジンが現れた。
アリシアはその中に入ると、俺に言う。
「では、アレクティス様……また明日の朝迎えに────」
「来なくていい!」
「アレクティス様は以前と変わらず照れ屋さんなのですから……では、明日学校でお会いしましょう」
アリシアがそう言うと、リムジンのドアが閉まりアリシアを乗せたリムジンは走り去って行ってしまった。
「……はぁ」
俺は大きな溜息を吐くと、家の中に入った。
そして、ご飯やお風呂などを済ませると、自室のベッドの上で横になる。
「今日は本当に、色々と大変だったな」
世界、技術力、制度の違い、魔法の有無、それら全てが違うのに、アリシアという存在が現れるだけでこの世界と前世の境目が見えなくなってしまいそうになる。
それだけ、俺にとってアリシアは────
「……」
俺は、前世でアリシアとはそういった関係にならないと誓った。
節度を持って接するべき従者と、例えその従者が望んで居ることだったとしてもそういった関係になることは俺の中で許し難いことだったからだ。
だから、この世界でも、俺は……
「……ベッドで一人になると深く考え込んでしまいそうになるな」
俺は、それを回避するためにいつもより早くに消灯することにして、眠りへと落ちた────その次の日。
俺が学校の教室に入ると、教室内はとても騒がしくなっていた。
「七深さんの家って、とても大きな会社してるらしいよ?」
「ね!私今日高そうな車で登校してるの見た!」
「顔可愛くて綺麗で細いとか反則だよね~」
「雰囲気からして格が違う感じしてたけど、やっぱりそうだったんだな~」
「俺七深さんと同じクラスになれたことで人生の運使い切った気がする」
「わかる~」
教室内がアリシアの話題で持ちきりだったが、俺は特に気にせずアリシアの隣の席である自らの席に座った。
「おはようございます、アレクティス様」
「おはようアリシア」
挨拶をして来たアリシアに対して俺がそう返すと、アリシアが言った。
「アレクティス様、本日の放課後もアレクティス様とお時間を共に過ごさせていただきたく思うのですが、本日はどこでお時間を過ごしましょうか?」
そう聞いてきたアリシアに対して、俺は言う。
「あぁ……今日の放課後はバイトがあってな、アリシアと時間を過ごしたいのは俺も一緒だが、明日でもいいか?」
俺が事情を説明したうえでそう聞くと────アリシアは驚いた表情で言った。
「バ……バイト?」
そして、続けて動揺した様子で俺に聞いてくる。
「ア、アレクティス様?バイトというのは、この世界でいうアルバイトというもののことですか?」
「そうだが、それがどうかしたのか?」
「アレクティス様に、アルバイトなどという形で労働させるなど……いえ、しかしアレクティス様が自ら選択なされた上でしていることなのであれば、それを私が否定するわけには……」
アリシアは、何かを小さく呟くと、普段通りの表情になって言った。
「アレクティス様、よろしければ私もそのアレクティス様のアルバイト場へついて行ってもよろしいですか?」
アリシアがついて来る……?と困惑した俺だったが────あることを思い出して、俺は間を空けずに頷いて言った。
「わかった、ちょうど俺もそこでアリシアに見せたいものがあるんだ」
「そうなのですか?とても楽しみです」
「あぁ、楽しみにしててくれ」
その後、今日も一日学校を過ごし終えると────俺とアリシアは、一緒に俺のバイト先へと向かった。
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