第5話 前世の従者とペアになる①

◇継条輪(アレクティス)side◇

「────継条くんは普段成績も良く真面目なんですから、今後は一時の好奇心に身を委ねないよう気を付けてください……以上です、もう授業が始まってしまうので、すぐに教室へ戻るように」

「……はい、すみませんでした」


 そんな担任の先生とのやり取りを最後に、俺は職員室を後にした。

 別にアリシアのことを庇う必要は全く無かったが、前世の癖で一度庇ってしまったし、何よりアリシアがあの一件のせいで転校初日から学校中に変だと思われて馴染めなくなるのも嫌だったため、最終的には俺が社長令嬢である七深に好奇心でヘリコプターを見たいと言ってしまったということで片を付けた。

 それで本当にヘリコプターを呼ぶのはおかしいと思われるかも知れない可能性もあったが、俺はそれを七深の優しさだと伝えることで良い感じにそのことを指摘されないようにした。

 これだけの対処は昨日までの継条輪ではできなかったことだろうが、前世のアレクティスとしての記憶を思い出したからにはこのぐらいできないとな。

 俺は、そんなことを思いながら教室に戻り、自らの席に座った。


「アレクティス様、大丈夫でしたか……?」


 すると、俺の隣の席に座っているアリシアがそう聞いてきた。


「あぁ、七深華音が屋上にヘリコプターを呼んだのは、俺の好奇心だということになった」

「好奇心旺盛なアレクティス様、とても愛らしいです」

「……はぁ」


 色々と言いたいことはあったが、もう数秒後には授業が始まるため、俺は特に何も言わずにそのまま数秒が経つのを待つことにした。

 そして、数秒が経ち終えると、チャイムが鳴って授業が始まった────次の休み時間。


「次は体育だから、みんな男女それぞれの更衣室で着替えるようにね〜!」


 女子生徒のクラスメイトがそう言うと、他のクラスメイトたちはそれに対して同時に「お〜!」や「は〜い!」などの声を上げた。

 俺は、それを聞いて呟く。


「体育か……次は確か、他のクラスと時間が重なったとかが理由で体育館内で男女合同だったな」

「私もそうお聞きしました」

「まぁ、とりあえず更衣室へ行くか」

「はい!」


 俺とアリシアは、それぞれ体操着を持つと、二人で一緒に更衣室へと向かった。

 そして、男女それぞれの更衣室がある場所の前に到着すると、アリシアが俺に対して言った。


「アレクティス様、一人でお着替えできますか?」

「……何を言ってるんだ?むしろできないわけがないだろ?」

「ですが、アレクティス様は以前ネクタイをお一人で結べな────」


 俺は、前世での話をしようとしたアリシアの言葉を遮り、俺は小声で言う。


「それは前世の話だ……!俺はもうこの世界で16年生きていて、しかもネクタイだって一年前からもう自分で締めてる……あと、前世でだって俺がネクタイを締めれなかったのはあの特殊な結び方をするやつだけでそれ以外はちゃんと自分で結んでいた!」


 俺がそう弁明すると、アリシアは小さく笑って言った。


「本当に、久しくアレクティス様のこういった一面を見ることができ、私はとても嬉しく思います」

「俺の話を聞いて────」


 アリシアに俺の話を聞いているのかと聞こうとした時、アリシアは俺の耳元で囁くようにして言った。


「アレクティス様がお望みになるのであれば、いつでもアレクティス様のお着替えをお手伝いさせていただきますので、必要な時はいつでもこのアリシアにお申し付けください」

「っ!余計なお世話だ!」


 俺はハッキリとそう言い切ると、男子更衣室へ入った……当然だが、俺がアリシアに着替えなんて頼むわけがない。

 念のために心の中でそう告げると、俺は体操着に着替えてから体育館へと向かった。

 そして、クラスメイトたちが体育館に到着すると、授業が始まり体育の先生に言われた通りに俺たちは男女別に並んだ。

 ……男女別に並べさせられるということは、少なくともこの体育の時間だけは俺にとって静寂な時間が訪れるということだろう。

 ────なんて思ったのも束の間、体育の先生が衝撃的なことを口にした。


「えぇ、今日は本来男子は男子、女子は女子のペアで取り組んでもらう授業でしたが、七深さんは今日転校して来たということで、ペアを組むなら一番親交の深い隣の席の継条くんが安心できると事前に伝えていただいており、本来であれば高校生の男女を体育でペアにするというのは様々な問題が出てくるところですが、今回は七深さんが転校初日ということで異例中の異例ではありますが、継条くんと七深さんはこの授業中ペアとして行動していただきます」


 ────え?

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