第4話 前世の従者が社長令嬢だった②
「待てアリシア、社長令嬢……?それに、空を舞うってヘリコプターに乗るってことだよな?学校はどうするんだ?」
「そのようなこと、私とアレクティス様が空中という周りには誰も居ない世界で二人きりとなれる幸せを考えれば大した問題ではありません……さぁ、アレクティス様、早く参りましょう!」
アリシアは、俺に手を差し伸べながら俺に一歩近付いてくるとそう言った。
今日は朝から、この世界における継条輪としての16年のどの過去をも上回るほどにインパクトの強い日だな……アリシアがとても楽しそうにしているからこのまま勢いでアリシアの提案に乗りたい気もするが、ヘリコプターに乗るとなると色々とハードルが高い。
俺がどうしたものかと困惑していると────突如屋上のドアが開くと、そのドアの先から担任の先生が屋上へ入って来た。
「あ、あなたたち!何をしているのですか!?」
そして、そう大きな声を上げた……そうか、ヘリコプターなんて大きなものに大きな風を切る音が聞こえてくれば、それに先生が気付くはずがない。
俺は、すぐにその先生の方に振り向くとアリシアのことを庇うようにして言った。
「すみません先生、このことは七深は何も悪くなくて、全部俺のせいです」
咄嗟にそう言った俺だったが────よく考えてみれば、俺は何も悪くない……むしろ、どちらかと言えば巻き込まれた側の人間だ。
それでもアリシアのことを庇ってしまったのは────前世の癖だ。
前世では、アリシアは俺の従者だったからアリシアが誰かにトラブルを仕掛けられそうになった時は、俺が率先してアリシアの前に出て全ての責任を取っていたため、その前世での癖が出てしまった……が。
「……継条くんの?」
今回に関しては、完全に俺は悪くなく、また他に誰かが悪意を持って何かを仕掛けてきたわけでもないため、俺がアリシアのことを庇う必要は一つも無かった。
「待ってください先生、今のは────」
「詳しいことは職員室でお聞きしますので、継条くんは今から私と一緒に職員室へ来てください」
「え……!?待ってください、俺は────」
そんな俺の反論は先生には届かなかったようで、先生は先に屋上のドアの方へと歩いて行った……ついて行かないという選択もできるが、それでもし事がさらに大きくなったりするのは望ましいことではない。
「アレクティス様のお優しいところは、お代わりないようですね」
俺が先生について行こうと決意した時、そう言ってきたアリシアの方を振り向くと、俺はアリシアに言う。
「今のは……前世の俺とアリシアの中に主従関係があった時の癖でああ言ってしまっただけで、今回の件は別にアリシアを庇わなくて良かったと今思ってる」
「そう言って私のことを庇ってくださるのが、アレクティス様なのです」
アリシアは、微笑みながらそう言った……そして、続けて優しい表情になって俺に近付いてきながら言う。
「私はそのようにとても優しいアレクティス様のことを愛し、お支えしたいのです」
そして、俺の目の前までやって来ると、アリシアは自然に俺のことを抱きしめようとしてきた────が、俺はそれを避ける。
「っ……!?私はアレクティス様のことを抱きしめようとしただけです、それなのにどうしてそれを避けるんですか?」
「どうして俺が今の話の流れで避けないと思ったんだ、愛したいと言われた後で抱きしめられるのに応じたら、それはもうほとんど頷いているのと同じになる」
「……つまり、アレクティス様は心だけでなく身も私と触れ合うつもりは無い、ということですね?」
「少なくとも、そういう恋仲の人間同士がするような方法ではな……悪いが、ここで先生について行かないとより事が大きくなりそうだから、俺はそろそろ行く……そのヘリコプター、ちゃんと屋上から離しておかないといけないからな」
「はい、承知しています」
そう言ったアリシアがスマホの画面をワンタップすると、そのヘリコプターは学校の屋上の真上から去って行った────それを見て安心した俺は、少し遅れてしまったが屋上から出て急いで職員室へと向かう先生の後を追った。
◇七深華音(アリシア)side◇
「アレクティス様が私との関係性を進展させるおつもりが無いのであれば、仕方ありません……少し強引ですが、ひとまずはアレクティス様との身体的距離を近づけるためにも、この学校という環境を最大限活用させていただくことといたしましょう」
屋上に一人残った七深は、そう呟きながら小さく口角を上げると、スマホの画面をスライドさせ、ある場所へ電話を掛けた。
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