第3話 前世の従者が社長令嬢だった①
アリシアの愛を、受け入れる……前世では、いくらアリシアがそれを望んでいると言っても、従者のアリシアと恋仲になるようなことは俺の中でしてはいけないことだったからアリシアのその気持ちを受け入れることはできなかった。
でも、この世界で俺とアリシアは今日まで何の関係性も無かった人間同士で、そこには主従関係というものは無い。
「……」
……違う。
そうだとしても、俺にとってアリシアはアリシアだ。
アリシアも、俺がアレクティスだと認識しているからこそ今こうして接してきている……つまり、姿形、世界が変わっただけで、前世の俺たちの記憶や心理状態があの時から変化したわけじゃない。
アリシアとまた生きて話せるというのは本当に嬉しいことだ……それは間違いない────が。
「アリシア……悪いが、俺はそのアリシアの愛を受け入れることはできない……前世の記憶が無い状態で出会っていたならまだしも、前世の記憶がある状態で出会ったなら、俺にとって七深華音は、前世のアリシアなんだ」
「……そうですか」
俺がそう伝えると、アリシアはそう返事をして俺から手を離した。
……アリシアのことを傷つけることになったかもしれないが、これは俺にとってどうしても譲れないものだ。
前世でも、俺の命が尽きるまで俺はそれを曲げなかった……転生したからと言って、前世での俺のその決意をそう簡単に曲げるわけにはいかない。
俺は、傷ついているであろうアリシアのことを慰めるように言う。
「アリシア……アリシアにとっては、俺との愛を果たせないというのは悲しいことだと思うが、俺はまたこうしてアリシアと生きて話せることが本当に嬉しい……だから、この世界ではお互いに主従も無く、良き友人として────」
「アレクティス様……僭越ながら、私はこの世界、前世ともに一番アレクティス様のことを理解している自信がございます」
そのアリシアの発言に間違いは無いだろう。
前世で俺の一番近くに居たのはアリシアで、前世で俺と一番長く時間を共に過ごしたのもアリシアだ。
俺が心の中でアリシアの発言を肯定していると、アリシアが言った。
「────そんな私が、今私が告白をした場合にアレクティス様にその告白が断られてしまう可能性というものを予測できていないと思われますか?」
「……予測できてた、のか?」
俺がそう聞き返すと、アリシアは頷いて言った。
「はい、アレクティス様の性格を考えれば、きっと前世と同じように私の愛を受け入れてくださらないことは容易に想像がつきました……そして、前世であれば私は立場上、アレクティス様の仰る通りにするしかなかったのです────が、今世では少し違います」
そう前置きをすると、アリシアはさらに続けて言った。
「私は今世では、どんな手段を用いてもアレクティス様への愛を果たさせていただきます……もう、前世と同じような結末になることだけは絶対に嫌なのです」
「……残念だが、この世界には魔法が無いんだ、そんな世界で、それもこの世界においてまだほとんど無力な高校生の今のアリシアにはどうすることもできないはずだ」
俺が前世、そしてこの世界のことも交えながら説得力を持たせてそう言うと、アリシアが頷いて言った。
「その通りです、アレクティス様……この世界において、一般的に高校生とは、前世の世界で言う平民と同じく、ほとんど無力に等しい存在です」
「あぁ、だから選択できるほどの手段なんて────」
「ですが」
アリシアは、ポケットからスマホを取り出してスマホの画面をワンタップした。
「何を────」
俺がアリシアに何をしたのかと聞こうとした次の瞬間────遠くから、風を切るような音が聞こえてきた。
「……なんだ?」
そして、その音は次第に近付いてくると────やがて、ヘリコプターとして姿を見せ、そのヘリコプターはこの屋上の真上で止まった。
「へ、ヘリコプター!?どうしてヘリコプターが────」
「私はこの世界でとても大きな会社の社長令嬢として生を受けました、前世に置き換えるのであればとても力のある公爵家の家です……ですからこの程度は造作も無いことなのです────アレクティス様、これより私と二人で空を舞いましょう?」
そう言って、アリシアは俺に微笑みながら手を差し伸べてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます