第2話 転校生が前世の従者だった②

「……え?アレク、ティス……?」


 俺の、前世の名前……?

 どうしてこの転校生が俺の前世の名前を……?

 というか、前世では果たせなかった愛……?

 そして、あの姿勢や動き、この喋り方やどことなく懐かしい雰囲気────


「まさか……アリシア、なのか?」


 俺のその問いに対して、アリシアは笑顔で答えた。


「はい!」


 そして、アリシアは続けて膝の上に置いている俺の手に自分の手を重ねて言った。


「アレクティス様……あぁ、またこうしてあなたの手に触れられる時が来るなんて……私はとても幸せです……」


 ……この雰囲気、間違いなくアリシアだ。

 前世でずっと一緒に居たアリシアの姿形が変わろうと、こうして接してみればそれを間違うはずがない……だが。


「こんなことが起きるなんて、信じられ────」

「継条くん、転校生が来てお話したくなる気持ちはわかりますが、今はホームルーム中ですのでお静かにお願いします」

「……すみません」


 担任の先生にそう指摘された俺は素直に謝った。

 俺の心情がどうであろうと、学校のホームルームの進行には関係無いことだからだ……その後、クラスメイトの男子生徒たちが俺の方に向けて言った。


「そうだぞ継条〜!七深さんが可愛いからってホームルーム中に喋るな〜!」

「そうだそうだ!隣の席が七深さんなんて羨ましいやつめ〜!!」


 そう野次を飛ばされた俺だったが────


「あなたたちもお静かにお願いします」

「う、うっす」

「す、すんません」


 担任の先生がその野次を飛ばしたクラスメイトに対してそう言ったため、俺への野次は止まった。

 ちなみに、弁明の必要は無いと思うが、俺はあの男子生徒たちが言ってきたような心情を持って隣に居る七深────アリシアと話をしようとしていたわけじゃない。

 ひとまず、休み時間までは余計なことをしないことだな……ということで、他人からは机で隠れて見えないだろうが、俺は念の為に膝の上に置いてある俺の手に自らの手を重ねてくるアリシアの手を俺から離すことに決めた────が。


「アレクティス様……こうして、温かなあなたのお手に触れられることを、私は本当に心待ちにしていたのです……アレクティス様……」

「……」


 しばらく、アリシアは俺の手を離してくそうになかったため、俺は自らの手を放置することに決めた。

 そして────休み時間になると、俺はアリシアのことを教室から連れ出して人気の無い屋上へ連れてきた。


「アレクティス様、私と二人になりたいと仰ってくださり、私は今幸福な気持ちでいっぱいです……」

「二人になりたいじゃなくて二人で話したいと言ったんだ……はぁ、もう半ば確信していたが、その様子だと本当にアリシアみたいだな」

「その通りです」


 目の前に居るのがアリシアだと確認できたため、そうだとするなら聞きたいことが山ほどあるが……一番最初に聞くなら、俺が死に際までずっと気にかけていたことだ。


「アリシア……アリシアは、俺が死んだ後ちゃんと幸せになれたのか?」


 ────アリシアが幸せになること。

 それだけが、死期を迎えた俺の唯一の望みだった。

 今こうしてアリシアと別の世界で、別の命で再会できたと言っても、そのことはやはり気にかかっているため俺がそう聞くと、アリシアは答えた。


「アレクティス様を失った私に、もはや目指すべき幸せの形などございませんでした……なので、幸せになどなれませんでした」

「っ……!そんなことは無かったはずだ、アリシアは俺への執着さえ無ければ、爵位が無くとも他の貴族から婚約を求められるほどの────」

「ですが、そのおかげで私は、私にとってどれほどアレクティス様が大きな存在であったのかを深く、深く身に刻むことができました……そして────私たちは、またこうして世界も時も超えて出会うことができたのです……ですから、アレクティス様」


 アリシアは、俺の左手を両手で優しく握りながら言った。


「今世こそ、私の愛を受け入れ私とお付き合いしてください!」

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