前世で俺のことを深く愛していた従者が、転生先の現代でも俺のことを深く愛していて社長令嬢となって迫って来る件。
神月
第1話 転校生が前世の従者だった①
「アレクティス様!アレクティス様!」
ベッドの上で横になっている俺の手を握り涙を流しながら俺の名前を呼んでいる俺の従者、アリシアの声が少しずつ遠くなっていくのを感じる……いよいよ、ということか。
「悪いな、アリシア……最後まで、お前には色々と苦労をかけた」
「苦労だなんて、そんな……私は、アレクティス様のおかげで……」
涙ながらにそう言うと、アリシアは俺のことを抱きしめて言った。
「アレクティス様、愛しています!アレクティス様は常々、従者と恋愛などできないと仰っていましたが……それでも、私はアレクティス様のことを愛しています!」
「そうか……だが、俺が死んだあとは、俺のことなど忘れて幸せに────」
「嫌です!私は絶対に、これから先何があっても、アレクティス様のことだけを愛し続けます!」
「……アリシア、お前は本当に、俺にとって良き従者……だった……」
「アレクティス様……?アレクティス様!……私は、来世があればアレクティス様の元へ赴き、今度こそアレクティス様のことを身も心も深く愛することをここにお約束いたします……!」
◆◇◆
「────い、今の、夢は……」
今までに無いほど強烈に瞼の裏に張り付くような夢を見た俺、
そして、右手で自らの頭に触れながら言う。
「違う、あれは夢じゃない……そうだ、あれは……俺だ……俺の、前世だ」
今まで16年もの間、この世界で生まれて生活をして来た。
小学校や中学校、今では高校二年生として高校にも通い、一般的な高校生らしく映画を観たり、ゲームセンターで遊んだりもした……それが継条輪だが、それらの記憶を上書きするように俺の頭の中は今前世の記憶で溢れ────
「ア、アリシア!?」
一瞬、前世の従者であるアリシアの気配を感じたような気がして辺りを見回してみるも、そこにはいつも通りの俺の部屋があるだけだった。
「そうだ……アリシアは、あれからどうなったんだ?というか、ここはあの世界と同じ世界なのか……?」
そう呟いた直後、俺はそうではないと考える。
何故なら────
「……」
今前に手をかざし、念じてみても魔法が出ない。
────そう、この世界には魔法が無い。
俺の前世の世界では、生活の基盤は魔法によって支えられ、モンスターたちも多数居たが、この世界には魔法もモンスターも無い。
「色々な記憶が同時に蘇ってきて少し頭が重たかったり、アリシアのことが気になったりもするが、とりあえず高校に行かないとな」
高校……昨日まで当たり前のように使っていた言葉なのに、前世の記憶を一気に思い出したから、その言葉すらとても懐かしい言葉のように感じる。
そんなことを思いながら制服姿に着替えた。
……いつもであればお弁当を持っていくところだが、今は少し頭が重く料理をしたいと思えるような精神状態では無いため、今日はお弁当では無く高校の購買で済ませることに決めて、俺は家を出て学校へ向かった。
「……平和な世界だ」
通学路を歩きながら、前世の世界と重ね合わせて、俺は今まで当たり前のように生きていたこの街並みを見て、ふとそんなことを呟いていた。
学校に登校し教室の中に入って席に座ると、俺はクラス内がいつもとは違う雰囲気でざわついていることに気が付いた。
今日は何かあっただろうかと思いながら、俺はクラスメイトの会話に耳を傾ける。
「ねぇ、聞いた?今日うちのクラスに転校生が来るって話」
「聞いた聞いた!しかも、いきなりって話だよね?」
「そうそう、今日手続きして今日転校してくるらしいよ?行動力ヤバくない?」
「ヤバ~!」
……転校生?
それも、今日手続きして今日転校して来るって……まだ今は朝の8時台だから、少なくとも朝の8時台までに手続きを済ませてそのまま今日転校して来るということか……さっきその話をしていたクラスメイトは「行動力ヤバくない?」なんて軽口を叩いていたが、冷静に考えてこれはそれどころの話ではない。
前世の記憶を思い出したと言ってもそれと引き換えに今世の記憶を失ったわけでは無いため、その異常さがよくわかる。
そして、そんな異常な人物がこのクラスにやって来るのか……このクラスは全体的に仲が良く良い雰囲気のため、その人物が入ることでクラスの雰囲気が変わったらと思うと少し怖いところがあるな。
俺がそう考えていると、チャイムが鳴ったため立っていたクラスメイトたちはすぐに席へ着くと、担任の先生が教室へ入ってきて言った。
「えぇ、急な話でしたのでまだ通達が行っていないという方も居るかと思いますが、本日は転校生を紹介します」
先生がそう言うと、クラスメイトたちはざわつき始めた。
転校生が来るとなれば、ざわついてしまうのも無理はない。
「入って来てください」
担任の先生がそう言うと、教室のドアが開きその転校生と思われる女性が教室の中へ姿を見せた────その次の瞬間、先ほどまでざわついていたはずの教室内から音が消えた。
おそらく皆、その転校生に目を奪われてしまっているのだろう。
転校生は、長い艶のある白髪を靡かせ、綺麗な目に高い鼻でとても凛々しい顔立ちをしており、体もスリムで歩く姿勢もとても綺麗だった。
転校生が歩く音だけが教室内に響くと、その転校生は教壇の前に立ち、何故か一瞬だけ俺の方を見てからすぐに正面へ視線を戻して口を開いて言った。
「皆様初めまして、
そう言い終えると、転校生こと七深華音は、綺麗に頭を下げた。
クラスメイトたちは、七深を歓迎するように拍手を送る。
あの流麗な頭の下げ方や、綺麗な姿勢……どこかで、見た覚えが────
「では七深さんは、継条くんの隣の席へ座ってください」
「はい」
そう返事をすると、七深は担任の先生に言われた通り俺の隣の席へ座った。
そして、一度俺に頭を下げると、俺の方に優しく微笑んで言った。
「本当に久方ぶりです、アレクティス様……約束通り、私はこの世界で、アレクティス様への愛を果たさせていただこうと思います」
◇
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