第8話

 ステラは星型のステッキでディアスティマの魔法を押し切り、ハーベスの前に立ち塞がる。

「ステラ……!?」

 驚くハーベスにステラは声をかける。

「あとは任せて」

「……アイツは強いぞ」

「私の方が強いよ」

 遠回しに君じゃ勝てないと言ったつもりのハーベスだったが、一刀両断されてしまった。ハーベスは直球に戦わない方がいいと伝えようとしたが、それはディアスティマによって遮られる。


「……貴様、何者だ?」

 ディアスティマが突如現れた少女に首をかしげる。

「魔法少女ステラだよ。君は?」

「我は、宇宙の律者ディアスティマだ」

「ご丁寧に自己紹介をありがとう、ディアスティマ」

「これから戦う相手に挨拶をするのは、戦士として当然のことだ」

「それもそうだね」

 緊張感のある空気が漂う。

 シャノンはハーベスの傍に行き、これから始まるであろう戦いの流れ弾に備えることにした。


 次に口を開いたのは、ステラだった。

「どうして西の王国を狙ったの?」

 それは、子供の純粋な疑問のようだった。

「西の王国は、魔族にとっての脅威が多いからだ」

「赤髪のお姉さんのお腹の子を狙ったのはなんで?」

「勇者の子だからだ。芽は潰すに限る。――これは予言だ。次代の西の勇者は、魔族にとって最も脅威となる存在になるだろう、と魔王様の側近であり予言者であるユーモス様が申した」

「なら、君達にとっての新たな脅威が生まれる前に私が新たな脅威となる。君達魔王軍は、私を倒そうと私に全力を注ぐようになって、国に構う暇なんてなくなる。君達は、私だけを見ればいい」

「貴様にそれほどの影響力があると思うか?」

「あるよ。嘘は言わないんだ、私」

「そうか。ならば、ここで貴様を潰すとしよう――〈宇宙光線〉」コズミック・レイズ

 ディアスティマによって、ステラへ一直線に魔法が飛ぶ。だが、ステラも瞬時に星型のステッキを前に突き出し、攻撃を繰り出した。

「――〈希望の光〉」スペス・レイ

 光り輝くステラの放った魔法は、ディアスティマの魔法を押し切って弾けた。

「っ……」

 ディアスティマの左半身が焼かれ、ダメージを与えたと思ったのも束の間、ディアスティマは両手を前に出した。その瞬間、ディアスティマの手に膨大な魔力が集まる。

「――〈ビッグバン〉」

 辺り一面が超高温高密度のエネルギーに包まれて爆発する。瓦礫が吹っ飛ぶ中、ステラは動じることなく、炎と塵の間をすり抜けてディアスティマめがけ、真っ直ぐと飛び、星型のステッキを前に突き出した。

「〈希望の光〉」スペス・レイ

「!! 〈銀河〉」ガラクシアス・フルーメン

「っ!」

 ディアスティマの急な攻撃でステラの身体が欠けていく。ステラは一瞬驚いた素振りを見せたが、すぐに態勢を立て直し、魔法を放つ。

「〈天の輝き〉」カエルム・ミコ

 天から光が降り注ぐ。

「〈星雲〉」ネビュラ

 すかさず放たれたディアスティマの魔法。煌めく塵が辺り一帯を覆う。ステラが一歩踏み出すと、煌めく塵の一粒一粒が小爆発を起こした。

「……動けないね」

 そう呟いたステラ。どうやら、触れると爆発する仕組みの魔法らしい。

「――〈ビックバン〉」

 再び、辺り一面が超高温高密度のエネルギーに包まれて爆発する。それが引き金となり、塵の一粒一粒が弾け、次第に計り知れないほどの爆発を起こした。

「……! ……ステラっ」

「……防御魔法が使えなければ死んだな」

 二人の戦いを黙って見ていたハーベスとシャノンが不安そうに呟く。二人も大爆発に巻き込まれたが、シャノンの防御魔法で無事だった。しかし、爆発の中心にいたステラはどうだろうか。この戦いでステラは一度も防御魔法を使ってなかったのを見るに、防御魔法は使えないのだろうとシャノンは予測する。

 つまり、そこにあるのは死。


 大爆発によって舞った塵が風に流されて消えていくと、ハーベスもシャノンもディアスティマでさえ、ステラがいた場所へ目を凝らす。そして、ステラの姿がうっすらと見えてきた瞬間、ステラはディアスティマへ一直線に飛んだ。

「……なんてタフな」

 そう呟いたディアスティマ。あの爆発を受けてなお無傷で生きているとは信じ難いが、これが事実。

 ディアスティマは、ステラによって放たれる魔法に対抗するべく、杖を前へと出した。

「〈宇宙〉」

「〈深淵〉」

 二人の魔法は、ほぼ同時だった。

 ディアスティマの魔法はステラを足から暗闇へと引きずり込もうとする。だが、ステラはそんなものを気にも留めず、ディアスティマの奥の奥を見るかのように目を大きく見開いた――


✦ ✦ ✦


 星が輝く暗い空間でディアスティマは優雅に白湯を嗜み、水面に映された少女との戦いを眺めていた。

 背後には部下を配置し、隣には同僚の深海の律者タラソが座っている。

「……この娘、どこの出自だ?」

「さあな。だがまあ、タフではあるが、戦えない相手ではない。勇者ネオンに比べれば赤子のようなもの」

「……だといいんだがな」

 どこか含みのある言い方をしたタラソだったが、ディアスティマはそれに疑問を持つことはない。


 その時だった。

 ディアスティマは己の破片と少女の目が合い、言葉にできない不快感に襲われた。

 少女の見開かれた瞳孔がディアスティマを射抜く。



 ――深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。



 ディアスティマはここにいるはずもないステラと目が合い、そんな言葉を思い出す。

 瞳孔を限界までこじ開けたステラの目からは、ドロリと黒い涙が流れており……


「みつけ、タ」


 少女の声が聞こえた。


「!!!」

 畏怖。畏怖。畏怖。畏怖。畏怖。畏怖。畏怖。畏怖。畏怖。畏怖。畏怖。畏怖。畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖畏怖――

 そんな感情に埋め尽くされて、ディアスティマの肉体が弾ける。


 死の淵で口の中は絶望の味がした――


✦ ✦ ✦


 意識を失ったディアスティマの身体が倒れ、次第に崩れていく。突然の出来事にステラが何をしたのかわからず、ハーベスとシャノンは息を呑んでその様子を見つめていた。


 ステラは、自分を引きずり込もうとする暗闇を光魔法で弾くと、軽やかに地へ足をつけた。そして、ディアスティマの亡骸を背後にステラは名乗る。



「私は、深淵の魔法少女ステラ。覚えておきなさい、魔族。君達を滅ぼす英雄の名を」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る