第5話
この世界では、人類側は東西南北の国を筆頭に各国が連携し、魔族側は魔王を頂点とし、三千年にも及ぶ戦争を続けている。
人類側では、人類の希望とも言える勇者という存在が古くから習わしとして受け継がれており、東西南北からそれぞれ選ばれた勇者達は、魔王へ立ち向かった。しかし、彼らが魔王に勝てることは一度もなく、魔族側も勇者の存在が邪魔をして大きく攻撃できず、結果的に戦争は三千年と続けられているのだ。
そんな、勇者と呼ばれる存在の一人。
西の王国から選ばれた勇者。
――西の勇者ネオン・ブレイヴ。
自らの足で魔王へと立ち向かった彼もまた、魔王に勝てることなく棺に入って国へと帰ってきた。
王が言う。
「……勇者ネオンよ。よくぞ帰ってきてくれた。我々は、この世界ある限り、勇者ネオンの偉業を語り継ぐことを神に約束しよう」
人々は、棺に入ったネオンへ敬意を込めて一礼する。泣いている者は、誰一人としていなかった。
次に王は、勇者ネオンに同行していた三人を見る。
「盗賊ハーベス。魔導士シャノン。聖騎士レオナ。最期まで勇者と居てくれた三人に深く感謝しよう」
「ありがたきお言葉です、殿下」
シャノンは王に向けて一礼をする。
――その時だった。
流星のように美しく、夜の暗闇のように恐ろしい魔法がネオンが入っている棺の前に落ちた。
魔法と共にやってきたのは、グラデがかった長髪の男。彼は、ネオンの遺体が入っている棺の中を覗くと、冷めきった声で言った。
「……これがあの勇者ネオンか」
橙色の髪に黄金の鎧を着て、大きな青いフープピアスを付けた男。真っ白な花に囲まれ、眠るように死んでいる。
突然の訪問者に人々は叫び声をあげて逃げていく。
国王と王妃は護衛によって城へと入り、民を守るようにハーベスとシャノン、レオナの三人が武器を取り出して長髪の男の前に出た。
「誰だ貴様!!」
「我は、宇宙の律者ディアスティマ。……汝は、西の勇者一行の一人、盗賊ハーベスか。右にいるのは、魔導士シャノン。左にいるのは聖騎士レオナ……ふむ、煩わしいところに来てしまったようだな」
「何故来た? 勇者はもういないぞ」
そう言ったハーベスの言葉を聞いて、ディアスティマは語る。
「今回で我々は思い知った。ブレイヴ家は魔族にとってあまりに危険すぎる。ここでブレイヴ家を根絶やしにするのだ。……人間共の繁殖率は異常だ。十数年もすれば貴様らの能力を強く受け継いだ子が生まれ、また新たな脅威となるだろう」
大公ブレイヴ家は勇者家系と言われており、先祖代々強い血筋を持つ者を取り入れ、西の勇者を多く輩出している。
勇者ネオンもまた、現大公の息子だった。
「勇者ネオンは強かった。いや、強すぎたんだ。紛れもなく歴代最強だっただろう。だが、そんな勇者も魔王を倒すことなく討たれてしまった。……しかし、人類の進化は早い。次代、次々代――いつかはわからないが、いずれ我々魔族を滅ぼす脅威となる」
「それは誰の命令だ? 魔王か?」
ハーベスは額に青筋を立て、そう聞いた。
「魔王様は現在療養中だ。貴様らは、魔王を討ち倒そうとして魔王に致命傷を与えたのを忘れたか?」
「忘れるわけないだろ。ネオンを殺したのは魔王だからな」
「勇者ネオンを殺されたショックで既に忘れていたかと思っていたが、人間の憎悪とは恐ろしいものだ。そう簡単には忘れないか」
嫌味のようにクスクスと笑うディアスティマ。
「……」
「うむ、鋭い眼光だな」
ハーベスの睨みを受け、そう言って不気味に笑うディアスティマ。
人類の感情を弄び、その感情を食べえ生き永らえる。寄生虫のように存在そのものが不快な魔族。
「……チッ」
シャノンは、思わず舌打ちが漏れた。
「その憎悪の感情、実に美味だ。湧き出るように貴様らから出てくるな」
嘲笑うディアスティマにハーベスは言う。
「……口喧嘩を買うつもりはないが、ブレイヴ家を狙うのであれば討ち倒す他ない。倒させてもらうぞ」
ハーベスの言葉を合図に、シャノンは魔法を撃ち、レオナは剣で斬りかかった。
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