第4話
ハーベス達とお別れをしたステラは、レオナが持たせてくれた地図を使って冒険者ギルドにやって来た。
ひらひらな服を着た少女と浮遊している魔獣の組み合わせは異質なのか、昼から酒を飲んで騒いでいたいた冒険者らしき者達がステラの方を見る。
だが、ステラは特に気にも留めることなく、カウンターの方へ一直線に歩き、受付の人に話しかけた。
「冒険者登録をしたいです」
「ごめんね、子供は登録できないの……また大きくなったら来てくださいね」
受付のお姉さんは優しく断ったが、ステラは機嫌を悪くしたのかむっと顔を顰めた。
「子供じゃない。私はもう十四才」
「あっ、そうなの、ごめんね。十三才以上であれば登録できるので大丈夫ですが、冒険者は危険なお仕事です。覚悟はありますか?」
真面目な顔で聞いてきた受付のお姉さんだったが、ステラはピースを向けて言った。
「大丈夫、私強いから。任せて」
「そ、そうなんですね……では、こちらの魔道具に触れてください。貴方が登録され、ステータスが見れるはずです」
「うん」
ステラを痛い子だと思ったのか引き攣った顔で受付のお姉さんが差し出してきたのは、竜のような紋章が刻まれた手のひらサイズの魔道具。ステラは言われた通りに魔道具に触れると、魔道具が光り、ステータスが宙に表示された。
「レベル4……あっ、既に魔物を倒しているみたいですね。わ、魔力量がとっても多いです! 他のステータスもかなり高いですし、そうですね……このステータスであれば、私は魔法使いをオススメしますよ!」
ステラの私強い発言が嘘ではないと分かったのか、受付のお姉さんは笑顔で接してくれる。
「魔法少女という職業はありませんか?」
「魔法少女……? それはないですが、語呂的に一番近いのは魔法使いだと思います」
「なら、魔法使いでお願いします」
「はい、ありがとうございます! では、登録するにあたって名前を教えていただけますか?」
「ステラです」
「ステラさんですね。ありがとうございます。ちなみになのですが、そちらの魔獣は契約魔獣ですか?」
「違います。相棒です。ノウンと言います」
「あ、相棒……なるほど。では、相棒のノウンと登録しておきますね」
「ありがとうございます」
慣れていないのか、少し下手くそで舌足らずな敬語を使うステラ。
「はい、これにて登録は完了です。クエストを請け負いたい時は、そちらのコルクボードから依頼書を持ってきて、受付の方に申請してください。報酬は依頼書に書かれている通りにお支払いいたします。また、各国を渡る時には、そちらの冒険者紋章が役に立ちます。失くさないようにしてくださいね」
「わかりました」
受付のお姉さんから説明を受けたステラは、迷うことなく冒険者紋章をノウンに渡した。
「えっ、私が持つのかい」
「うん。持ってて」
「全く、仕方がない子だね……」
ノウンは特に疑問も持たず、まるでいつものことだというように冒険者紋章を毛の中にしまった。
「お姉さん、ありがとうございました」
ステラは受付のお姉さんにお礼を言ってお辞儀をすると、ギルドを後にした。
・
ギルドから出ると、街が賑やかなことに気付いた。
ギルドの前だけではなく、大通り全体がお祭りのように人がごった返している。
「? なんだろう?」
「何かが始まるのかもしれないね……」
「ふーん……」
ステラは、そんなノウンの言葉に、好奇心で人々が視線を集める場所へ行ってみることにした。ステラの小さな身体は、人と人の間をするりと抜けていき、そう時間もかからず大通りの道の中心の一歩手前に辿り着く。
大通りの中心では、棺桶を乗せた黒い馬車と赤い服を着た兵隊達が城へ向かって一定のスピードを保って進行していた。兵隊達にはラッパを吹く者や旗を持つ者などがおり、両側にある建物の二階からは紙吹雪を散らす者がいて、まるで王様が通るかのような豪勢なパレード。だからこそ、ステラは最前線で進行する棺桶が異質に感じた。
「? 誰か死んだの?」
「そうみたいだね……」
「それにしては賑やかだね」
「国に帰ってきてくれた彼を出迎えているのさ。この国ではそれが文化なんだろう」
二人でそう話していると、赤い馬車に乗ったハーベス達が目の前を通った。
「あ、ハーベスだ」
ハーベス達は愛想良く民衆に手を振っている。ステラはシャノンと目が合った気がしたが、直ぐに逸らされてしまった。
「むっ」
シャノンの行動に少し機嫌を悪くしたステラだったが、城の前で馬車が止まり、バルコニーから王様と王妃様らしき人物が出てきた。
すると、賑やかだった国は一気に静かになり、ハーベス達は馬車を降りて王様と王妃様に向けて膝をついた。
王は言う。
「……勇者ネオンよ。よくぞ帰ってきてくれた」
マイクらしき物は見当たらないというのに、遠くにいるステラまで王様の声が響く。
だがそんな些細なことはどうでもよくて、ステラは王の発言で気付いてしまった。
「……勇者はもう死んでいたんだね」
ステラはそう呟く。
ハーベスが言っていた。
『今ここにはいないけど、僕達の仲間の一人が勇者でね。僕達は勇者をリーダーにしたパーティーなんだ』
と。
あの時、馬車の中で三人しかいなかったのは、既に勇者が死んでいたからだ。ステラが座っていた場所は、本来なら勇者が座っていたのだ。もう一台あった黒い馬車には、勇者の遺体が入っていたのだ。
「勇者は英雄だから、こんなにも豪華なパレードで出迎えていたんだね。例えそこに魂が無くとも、死者は天国で現世を見ている。そう言い伝えられているから、最大の敬意を込めているんだ」
ノウンがそう教えてくれる。
王は続ける。
「我々は、この世界ある限り、勇者ネオンの偉業を語り継ぐことを神に約束しよう」
ステラはそんな王の言葉を聞きながら、この世界も勇者も何も知らない自分よりも、勇者を讃えようと集まった人々に少しでも場所を空ける為にこの場を離れた。
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