第3話

 巨大モンスターを倒したステラ。

 馬車のカーテンが開いて、誰かが声をかけてきた。

「強いんだな、君」

 馬車の中に見えるのは、三人。男性が二人と女性が一人。声をかけてきたのは手前にいる男性だった。

 紺色の髪に青緑色の眼、金色の装飾を付けた男。左半身には大きく火傷の跡が残っている。

「まあね」

 ステラは誇らしげに返事をすると、男性は幼子を見るような優しい目を向けて聞いた。

「どこから来たんだ? そんなに強いなら、どこも引く手数多だろうに。まだ幼いだろう」

「むっ、私は子供じゃない」

「そうか? 僕には十二歳くらいに見えるのだが……本当はいくつなんだ?」

「十四歳」

 ステラはピースを向ける。

 男性は、自分が想像していたより少し上の年齢であったが、それでも子供には変わりない彼女の思春期特有の心情を汲み取り、やはり子供だったと言わずに優しい笑みを浮かべる。

「助けてくれたお礼をしたい。君がよければ、共に西の王国へ行かないか?」

「西の王国?」

「僕達の故郷だ。賑やかで穏やかで大陸で一番良い国だと僕は思っている」

「ふーん……じゃあ、行ってみようかな」

 ステラは少し考えて、西の王国に行ってみることにした。半分は好奇心で、半分はここが本当に異世界ならば案内人はいた方がいいと思ったからだ。

「ここからそう遠くない。あと三日もすれば着くはずだ。丁度一席空いているから、ここに座るといい」

 男性はそう言って、馬車の扉を開けた。

「僕はハーベス。君の名前は?」

「私はステラ」

 ステラは、ハーベスの隣に座った。

 前に座るのは、赤髪をポニーテールにした騎士風の女と金髪糸目の魔法使い風の男。

「ステラちゃんね。私はレオナよ」

「オレはシャノン」

 レオナと名乗った女は優しく微笑み、バージルと名乗った男はひらひらと手を振った。

 名前だけの簡素な自己紹介が終わったところで、レオナが聞いてきた。

「さっきの魔法……ステラちゃんは魔法使いなの?」

「ううん、私は魔法少女だよ」

「なあシャノン、魔法協会にそんな職業あったか?」

「ないね。この子独自の世界なんじゃないの」

「むっ、私は本当に魔法少女だよ」

「っと君達、睨み合わないで。シャノンも大人気ないぞ。ステラちゃんも許してやってくれないか」

「……チッ」

「舌打ちしやがったな、このガキ」

「シャノン!!」

 ハーベスに叱られたシャノンは舌を出してそっぽを向く。シャノンの隣に座るレオナは苦笑いをし、ハーベスはムスッとするステラに声をかけた。

「ステラちゃん、魔法少女はどういうものなんだ?」

「……魔法少女は、救いの手を待つ人々を助けに向かうの。悪者をやっつけて、人々に希望と勇気を与える素敵な存在。私はそれになったの」

「あぁ、素敵だな。まるで勇者みたいだ」

「……勇者?」

 ステラは、ハーベスが言った言葉に反応した。

「そう、勇者。今ここにはいないけど、僕達の仲間の一人が勇者でね。僕達は勇者をリーダーにしたパーティーなんだ。……今はちょっと違うんだけどね」

「パーティー?」

「仲間達ってことさ」

「ふーん……それなら、私も相棒がいるよ。ほら!」

 ステラは少し考えてから、元気にノウンを見せた。

 ステラの両手に抱えられているのは、ぬいぐるみサイズの可愛い姿をした白い魔獣。

「ステラちゃんの隣を浮遊していて、確かにさっきからずっと気になってたけど……契約魔獣なの……?」

 レオナが興味津々に聞いてきた。

「契約していないよ。私達は相棒さ。なあ、ステラ」

「うん!」

 そんな魔獣の言葉にステラは嬉しそうに笑い……。

「嘘だろ、コイツ喋ったぞ……」

「かなり知能が高い魔獣なのね……」

「喋る魔獣なんてキメラやドラゴン等の超上位生物しかおらんはずなんだが。……見たことない生物だし、これは特殊個体か?」

 シャノンはそう言って、興味深くノウンを観察する。尻尾に足先、頭のてっぺんまで見られたノウンは命の危険を感じたのか、ステラの手からするりと抜けてステラの頭の上に座った。

「私はノウン。ステラの案内人であり相棒さ」

「魔獣は己の方が格上だと示すために相手より高い位置に立つ習性があるが……まさにそれだな」

「シャノン君、冷静に分析しないでおくれ……」

「まあまあ、シャノンにノウン。これから西の王国に着くまで一緒に過ごすんだ。仲良くしような」

 ハーベスのそんな声かけにノウンは小さくて短い前足をシャノンに差し出し、シャノンも手を取り小さな握手を交わした。



 それから三日間、ステラとノウンはハーベスとシャノンとレオナにお世話になった。

 途中襲いかかる魔物は、ステラが蹴散らした。

 おがけで護衛達にも可愛がられたステラは、今も皆から飴玉を貰って餌付けをされている。

「ステラちゃん、これも食べなさい」

「若い内は沢山食べとくんだぞ」

「うちの娘と同じくらいだからつい心配になるなぁ」

「ありがとうございます」

 ステラはお礼を言って貰ったお菓子をもぐもぐと頬張っていると、休憩も終わりそろそろ出発ということで、馬車に乗り込んだ。すっかり定位置になったハーベスの隣にステラは座り、ノウンも定位置のステラの膝の上に座った。

「ステラ、またお菓子を貰ったのか?」

「うん」

「美味しいか?」

「うん」

「そうか、よかったな」

 ハーベスは、夢中でお菓子を頬張るステラを優しい笑みで見守る。


「さて、皆様。出発しますぞー」

 馬を引く人から声がかかり、馬車が動き始める。

「あと数時間で着くみたいね」

 レオナが外を見て呟くようにそう言った。

「あぁ、ステラともお別れだな。ステラは強いようだから、西の王国に着いたら冒険ギルドか魔法協会に登録をするといい。これから動きやすくなる」

「うん、行ってみるよ」

 四人は他愛もない話をしながら、三日間に渡る最後の馬車の時間を過ごした。



 正午くらいだろうか。太陽が真上で輝いている。

 レオナは何かに気付いたらしく、勢いよく馬車から身を乗り出した。

「見えてきたわ!! ほら、シャノン! 見て!」

「おぉ、そうやな」

 レオナは嬉しそうにシャノンに声をかけたが、シャノンはいたって冷静だ。

 ステラは、レオナが何を見たのだろうかと気になっていると、ハーベスは外を指差して教えてくれた。

「あれが西の王国だよ」

 遠くに見えるのは、赤い屋根と白い壁の建物が多く建てられた街。一番大きい建物は、城だろうか。

「すごい……」

 ステラは思わずそう呟く。


 街に入ると馬車が止まり、ステラはノウンと共に馬車を降りた。

「さて、ステラちゃん。僕達が一緒にいれるのはここまでだ。元気にするんだぞ」

「うん、ハーベス達も元気でね」

「ステラちゃん、またね」

「レオナ、肺が苦しい」

「あらっ、ごめんなさい」

 レオナは慌てて抱きしめる力を緩める。

 ステラはハーベスにレオナ、護衛達の顔を見て、最後にシャノンの顔を見た。

「はよ行け」

「むっ、言われなくても」

「はぁ、シャノンとステラは結局最後まで仲が悪かったな……」

 ハーベスは呆れたように溜息をつく。

 しっしと手を払うシャノンにステラは気を悪くし、浮遊しているノウンをバッと掴んで前に抱き込むと、皆に背中を見せるようにして歩いていってしまった。

「ステラちゃん……」

 レオナが未練がましく呟く。

 もうすぐお互いに見えなくなるだろう位置でやっとステラは振り返り、皆にひらひらと手を振った。

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