第2話

「起きて、ステラ!」

「うぅん……うるさいよノウン……まだ寝るから……」

 モゾモゾと寝る体勢を整えるステラだが、ふかふか布団がないことに機嫌を悪くし、目を瞑ったままムッと顔を顰める。寝起きの機嫌が悪いのはいつものことでノウンも無理に起こしたりはしないのだが、今は緊急時だ。

「起きないと食べられるよ!! ほら!! あ、あぁ……狼がいるよー!! 目の前にいるよー!!」

 ステラをジッと眺める狼。狼にしては大きく熊サイズで、ぬいぐるみサイズのノウンはぶるぶると震えるしかない。

「ステラー! ステラー!!」

「うるさいなぁ……」

 ノウンが必死に叫ぶとステラは星型のステッキをどこからともなく手に取り、高純度の魔力を狼へ向けて放出した。

 狼は危機一髪で魔力を避けたが、耳が裂けていた。狼は流れる己の血を見て、次に呑気に眠るステラを見て、煽られたと思ったのか本格的に攻撃を始める。

「あー!! 爪! 爪が!!」

 狼は、前足でステラに殴りかかる。

 だが、ステラは一度世界を救っているのだ。呑気に寝ていようと生半可な攻撃に気付かないわけもなく、ノウンを抱えて狼から距離を取った。

「いきなり何? 組織の残党? にしては犬……?」

「やっと起きたんだね、ステラ! アレは、ウルフハウンド。モンスターの一種だよ」

 寝起きで不機嫌なステラだったが、聞いたことのない言葉に疑問を持った。

「……モンスター?」

「そう、モンスター。ここは前の世界とは全く違う。モンスターが蔓延る弱肉強食の世界。……私達は、何者かによって異世界へ運ばれたみたいだよ」

「ふーん……」

 ノウンの説明を聞いて、ステラは辺りを見渡す。

 どこかの森の中だろうか。植生はパッと見た感じだと特に日本と変わらないが、ここが日本であるならば珍しく地面がアスファルトではなく土が剥き出しのまま。空も見上げてみるが、特に変わった様子は見られない。

「異世界なんて信じられないけど、ノウンがそう言うならそうなんだろうね。とりあえずあの狼を倒すよ。いや、カレの名前はウルフハウンドだったかな」

「あぁ、それがいいね……!」

 ステラは星型のステッキを構えて、ウルフハウンドへ向けた。

 ウルフハウンドもステラの攻撃を察知したのか、牙を剥き出しにして襲いかかってくる。

 だが、ウルフハウンドがステラに近付くよりもステラが魔法を発動する方が遥かに早かった。ステラは、高濃度魔力をウルフハウンドに向けて放った――。

「うん、いい感じだね」

 塵と化したウルフハウンドを見てステラは満足そうにそう言うと、遠くの方から数人の叫び声が聞こえた。

「異世界でも助けを求める声がするね。……行こっか、魔法少女としての役目を果たしにね」

 ステラはノウンを抱え、声がした方向へ走っていった。



 ステラが向かった先では、ヘビとトカゲを合わせたような巨大モンスターが二台の馬車を襲っていた。一台は赤く、もう一台は黒い馬車だ。

 周りに鎧を着た護衛らしき者も数名いるが、劣勢なのが見てわかった。

「まさしく魔法少女である私の出番だね」

 ステラはノウンを離し、どこからともなく星型のステッキを取り出すと巨大モンスターへ飛んで向かった。モンスターも攻撃を察知したのか牙を剥き出しにして襲いかかってきたので、ステラは光魔法を放つ。

「硬いね」

 巨大モンスターは、ステラの攻撃に怯んだものの鱗によってダメージは受けていないようだった。

「ちょっと君、何をしているんだ!!」

「君のような子供が相手にしていいモンスターではないぞ!! 今すぐ立ち去りなさい!!」

 護衛らしき者達がステラに声を荒げた。

「むっ、私は子供じゃない」

「いや、どこからどう見ても子供だろう……しかも、豪華な服を着て、どこかのご令嬢か……?」

 態勢を立て直して襲ってくる巨大モンスターにステラはステッキを構える。

「私は子供でもないし」

 光魔法を一発。 

「ご令嬢でもない」

 さらにもう一発。

 ステラの攻撃に甲高い声で鳴き叫ぶ巨大モンスターを見た護衛らしき者達は、ステラを止めるのをやめてその光景を呆然と眺める。


 表情一つ崩さずに巨大モンスターと戦うステラ。

 ステラは牙を剥き出しにして負けじと襲ってくる巨大モンスターを目の前にして直前で宙へ飛び上がり、巨大モンスターに向けて高濃度魔力を放った――。

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