第34話 新キャラ登場☆
「やあっと来やがったすね先輩! あちきはこの日をずっと待っていたっすよ!」
ライオンと虎の頭が二つあるキメラの背中に乗り胸を張るイリスレインの少女は、なぜかテニスのラケットをシャロに突きつけて仁王立ちしていた。
服装もテニスのスコート、テニスウェア、テニスシューズ、されど白衣を羽織る。
黄色い肩までのボブカットに推定Aカップの少女はシャロの後輩ということなので、年齢も十六歳程度に見えた。
「そう、私は待っていなかったけど、用件はなに?」
大人の余裕を見せつけるシャロの前でヒサメはラケットを振り回して己の存在を主張する。
「なにってこれを見ればあちきの研究成果がわかるっす! キメラのグールっすよ! 今まで誰も作れなかったっす! どうっすか先輩!?」
「どうと言われても、どうでもいいわ」
本気で興味がないようで、シャロは腕時計を見ながら時間の方を気にしていた。
「なぁシャロ、時間がねぇならあたいがぶっ飛ばしちまおうか?」
「やめときなさいアカネ。あの子、研究者というより実力買われて国連にスカウトされたのよ」
アカネとのやり取りが聞こえたのか、魔法付与の魔弾を手のひらの上に造り上げたヒサメは闇に落ちた笑みを浮かべてラケットを構えた。
「いひひひ! 先輩の言う通りっすよ。あちきは出来た女っすからね。連合オープンテニス一位の実力を見たいっすか!」
頭を抱えるスズメはうめく。
「……情報多すぎてよくわかんないんだけど、テニスの実力を買われたの? それとも戦闘力を買われたの?」
「テニススタイルの魔弾使い。普通のテニスも強いけど、戦闘でも強い。今はキメラも従えているから研究者としてもそこそこ実力あるんじゃない」
シャロの説明で余計にスズメは頭を抱えた。
「……器用貧乏」
「多才と言ってほしいっすよ!!」
耳がいいことも確かなようだ。
「ヒサメ、あんたいい加減、用件を言いなさいよ。私も暇じゃないの」
明らかにヒサメは何で用件が伝わっていないのかとショックを受けてよろめいた。
だが、キメラの背中から落ちる寸でで態勢を持ち直し、再びシャロにラケットを突き付ける。
「朝井シャロ! 今なら貴様の裏切りも帳消しにしてやるっす! それどころか懐の広い国連は元のポストへ戻してやると言ってるんすよ! あちきと一緒に国連へ帰るっすよ!!」
「お断りよ」
シャロは即答していたが、ヒサメ以外にも月のフクロウのメンバーはみんな驚いていた。
「うええ! シャロおめぇ国連の手先だったのか?」
「驚いたな。しかし言われてみれば月のフクロウで一番の古株はシャロだった」
「わたくしたちのことを一番知っているのもシャロさんですもんね」
「……あたしが一番新参者だからね」
「えっへん! アニマは二番目の古参メンバーですよ!」
「……じゃあシャロのこと知ってたの?」
「子供に難しいことを聞かないでください!」
「……役立たず」
「びええええええん! 観測者さあああん!! アニマいじめられてますうう!!」
胸に飛びついて来たアニマのことはマスコットだと思うことにした観測者は、話が終わったようなのでメンバーに指示を出す。
「レイナ、アカネ、サオリ、スズメ、同時に仕掛けろ。今のお前たちならキメラくらい倒せるはずだ」
「あちきのキメラと張り合おうっていうんすね! やってやるですよ! こっちが勝ったら先輩はあちきのものっす!」
息巻くヒサメはキメラから飛び降りる。戦闘の指示が出されたキメラのグールは腹の底へ響くような重低音の咆哮を上げると火炎と氷の息吹を噴き出しながらこちらへ疾走してきた。
「結界! 防御!」
「その必要はない」
シャロが慌てて結界と防御魔法を張ったが、観測者が前に出て拳を握った。
途端にキメラが硬直したようにその場で動かなくなる。口から吐き出す魔法も消えていた。
「な!? なんで戦わねぇっすか!?」
ヒサメが驚愕の表情で固まっている隙に聖剣を構えたレイナ、炎の拳を握るアカネ、毒付与のナイフを数本持つスズメ、聖なる矢を構えたサオリが一斉に戦闘態勢へ入る。
「はあっ!!」
レイナの聖剣がキメラの首へ一閃を放つ。
「おらああ!!」
アカネの炎付与の打撃がキメラの胴体に撃ち込まれた。
「これならどう!」
スズメがナイフを一気に六本放ち、キメラの体に突き刺さる。
「参ります!」
風を穿ち、サオリの聖なる矢が一直線にキメラの二つの額へと同時に突き刺さる。
「ガ、ガガガ……」
魔力の底も尽きたキメラのグールはしゅわしゅわと泡となって消えていく。
ふぅ、と一息ついたシャロは観測者の腕に胸を押し付けながらもたれかかった。
「なんだか今回は世話をかけちゃったわねぇ、お礼に体をほぐしてあげるわよ」
「報告に戻る。帰還だ」
相変わらずシャロの誘いは空耳と思い込む観測者はさっさとこの場から去ろうとした。
「待ってほしいっす!」
キメラの失敗を見届けても伏木ヒサメはシャロの方を真っ直ぐに見つめていた。
「先輩! あちきも研究のお役に立てるようになったっすよ! また昔のように、姉さんも居たあの頃にあちきは先輩と一緒に戻りたいっす!」
シャロは一度だけヒサメの方へ振り返った。
「……私は、もうあの頃なんかには戻りたくないのよ」
観測者の腕に甘えるシャロは歌うようにヒサメから遠ざかる。
「ふふふ、観測者の生ミルクを搾り取るまでは夜も眠れないわよ」
「ずるいですよシャロさん! アニマだってミルクが欲しいのです!」
「私は絞るものも無くなった後でも構わないぞ」
「ならわたくしが代わりにミルクを観測者さんに飲ませてあげます!」
「おめぇのチチで生絞りできんならあたいだって絞り出せるぜ!」
「……まずどうやって服を脱がせるのよ」
あれやこれやと作戦を立てながら月のフクロウメンバーは輸送機へと戻っていく。
「……あんなにシンシアを愛していたのにシャロ先輩はどうしちまったっすか……?」
ヒサメのつぶやきは風にさらわれてシャロの胸には届かなかった。
☆☆☆
今回は新キャラ登場です!
テニス少女ヒサメも可愛いぞという方は♡や☆で応援していただけると嬉しいです!
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