第12話 月のフクロウ、慈善活動中

 施設の予備部隊、月のフクロウは実戦経験を積むため、週に一度は外の世界に出て慈善活動をしている。


 野良のグールを見つければ排除するし、リリンのマナに侵されたイリスレインを見つければ中和剤を投与して救出していた。


 今回は施設が管理する保護区域の近くで大量のグールが集まってきているという情報が寄せられたので、グール討伐のために森林地域にやって来ていた。


 森の中を歩きながら観測者はグールの生態について説明していく。


「大型のグールの中には魅了や誘惑という人やグールを呼び寄せる精神感応系の魔法を使う奴がいる」


 シーフタイプのスズメが矢を放ち、イノシシ型のグールが三体地面に伏した。


「わたくしが行きます!」


 姫騎士サオリがロングスピアの連撃を放つ。大型の熊型グールが絶命した。


 戦闘は続いているが、観測者の説明も続いていた。


「施設や施設の保護区域では幾重にも結界魔法や防御魔法が張られているから、保護区域から出ない限りは人間が呼び寄せられることはないが、こういった野良のグールは集まってしまう」


 うさぎのぬいぐるみを振り回す回復役のアニマは涙を流しながら逃げ回っていた。


「うええええええええん! 蝙蝠さんがいっぱい襲ってきますうううう!!」


「邪魔だちびっ子! 伏せろ!!」


 すかさずアニマは地面にダイブした。


 直後、ゴオオオオオオオオオオオ!! と轟音を奏でながら炎の波が空中をさらっていった。無数の蝙蝠型グールが焼かれて地面に落ちていく。


「行けるかシャロ?」

「まっかせなさい」


 シャロがレイナのスピードと破壊力を増加するバフをかけた。


「人々を守るため、わたしは戦う!」


 稲妻の如きスピードでレイナの聖剣が何十回と振るわれる。


 レイナが過ぎ去った動線ではオランウータン型のグールが何十体と体を真っ二つに引き裂かれて倒れていた。


 アカネはまだ空中を飛び交う翼をもった飛行タイプのグールを炎の波で燃やし続けていたが、一定の速度で歩き続ける観測者の説明はまだ続いていた。


「つまり、この森の主を倒せば自動的にグールを呼び寄せる魔法が解除され、今回の任務は終了となる。逆を言えば触手を扱うこの森の主を倒さない限りは永遠にグールは増え続けるだけだ」


 アニマが泣きじゃくりながら走り回り前後不覚になりゴーレム型のグールにぶつかると、すかさずシャロが防御魔法をアニマにかけた。


「星天に跪きなさい!」


「幼女を狙う悪党を許しはしない!」


 左右からサオリのロングスピアとレイナの聖剣が光を放ち、ゴーレム型グールを打ち砕いた。


 防御魔法に守られていたアニマは目を回してしゃがみこんだ。


「うええええん! 全然数が減らないですよー!」

「確かに、むしろ増えている気がするね」


 冷静に分析するスズメだが、答えは既に観測者が説明していた。


「みなさん! あちらに湖があります! 強力なリリンの気配が漂ってくるのを感じますよ!」


 姫騎士サオリが指をさすところには森がそこだけぽっかりと開き、湖面が広がっていた。


「やっと親玉の登場か!」


 アカネが一番乗りで颯爽と草木を飛び越えて駆け出していく。


「アカネ! 敵が単独とは限らん! 全員足並みを揃えろ!」


 聖剣士レイナがリーダーっぽく正論のようなことを言っているが、観測者は敵が単独の可能性を示唆していた。


「レイナ! アカネを止めるより追いかけた方が早い!」

「それもそうね!」

「待ってよおおお!」

「アニマはわたくしが背負います!」

「仕方ないね、俊敏の魔法をサオリにかけてやるよ」


 アカネを追いかけるスズメ、レイナ、サオリ、おぶさるアニマ、バフ魔法をかけるシャロもそれぞれ湖に向かって走り出した。


 観測者は彼女たちの行動を観察しながら、一定の速度で湖へ歩みを進めた。


「うわあああああ! なんだこいつ!?」


 アカネの叫び声が聞こえる。


「きゃあああああ!」


 続いて案外可愛らしいスズメの叫び声が聞こえた。


「いやああああああ!」

「は、放せ! 不埒者!」

「びええええええん!」

「ほう、これが噂の触手か」


 誰一人、観測者の話を聞いていなかったようで、触手が待ち構えている湖に結界魔法も防御魔法もかけずに不用意に近付いた結果、月のフクロウのメンバーは全員触手に捕まっていた。


「生体の説明と対処方法は説明した通りだ。あとは実戦で戦い方を学ぶんだな」


 観測者は湖のそばに生えていた大木の根っこに腰を下ろすと目を閉じた。


「ひああああん! 服の中に入ってきちゃだめですぅ!」

「や、やめて! いやあああん! 入ってきちゃらめえええええ!」


 ぐちゅぐちゅぬるぬると触手はイリスレインの美少女たちを蹂躙していく。


「やああああ! 舐めちゃやらあああ!」

「ひぐっ! ら、らめ! そんなとこ入らなっひぎぃ!!」


 筆舌しがたいあられもない美少女たちの痴態が曝け出されていく。


「観測者! 助けてくれよおおお! うああああああ! やめ! やめろおおおおお!」


「くぅ! はぁはぁ、んああああ! これ以上はむりぃいいい!」


 いつもは強気な彼女たちも涙を浮かべて凌辱という辱めを受けていた。


 だが、観測者はその姿を一切見ていなかった。目を閉じていたから。しかも何も聞いていない。


「うおおおおおおおお! もう怒ったぜ! 全力の炎舞龍爆破だああああああああ!!!」


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオッン!!


 アカネの炎が龍となり美少女たちに絡みつく触手をすべて喰らい尽くして湖の一つを蒸発させるほどの爆発を起こした。


 直前でシャロが防御魔法を張り、傷を自動的に修復する回復魔法をアニマが放っていたため、大量の水しぶきを浴びただけでイリスレインたちは無事に触手から逃れることが出来た。


 その後、レイナが聖剣で正常な空気を取り戻し、サオリの祈りでこの森にかかっていた誘惑や魅了といったグールを呼び寄せる魔法は取り払われた。


 さて、下着もぼろぼろに溶かされた月のフクロウメンバーは一様に青筋を浮かべて怒っていた。


 代表としてアカネが観測者の胸ぐらをつかんで叫ぶ。


「ひでぇえええよ! あたいたちを助けてくれてもいいだろおおお!! おお?」

「どうしましたか?」


 観測者の首は後ろにがっくりと垂れ下がり微動だにしない。


 アカネは拳を握りしめて涙混じりに再び叫んだ。


「こいつ寝てやがる!! あんまりだあああああああああ!!!」


「わたくしが泣きながら耐えた恥辱の限りを見ていなかったんですの!?」

「見せ損じゃんか!!」

「いや、見られてもいない大損だろう……」

「アニマもエロかったのにぃいいい!!」

「ふふ、さすがだよ。難攻不落ほど落とし甲斐がある」


 もちろん、この頃、観測者の意識はミジュのところへ遊びに行っていた。



☆☆☆

少しでもお楽しみいただけましたら♡や☆で応援していただけると嬉しいです!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る