第35話 悪徳セラピスト豚野郎


 水着イベント中ローゼリンデは噴水広場にいるのでそちらに向けて飛んでいきます。

 噴水広場はこの島唯一水が出ているため、人は勿論動物とか無害な魔物も訪れる場所であり、動物好きという設定のあるローゼリンデはここに足繁く通っており、本来ならばイクスにここで動物を可愛がっているところを発見され、恥ずかしがるイベントが発生する場所です。

 到着すると早速ローゼリンデがタマアザラシというバスケットボールくらいの大きさのボールみたいなアザラシを懐で抱きしめているのを発見しました。

 タマアザラシは「何が聖女だ……。性女じゃねえか!」とプレイヤーに言わしめた凶暴な胸に目潰しをされ、胴体と見分けがつかない首部分にちょうどいい感じに手が回されていることで首が絞められ非常にグロッキーな状態になっております。

 本人からしたら愛情によるスキンシップかもしれませんが傍から見たら動物虐待の現場です。


「死ぬぞそいつ」


「え……あ?」


 指摘すると驚いたローゼリンデが手を離し、初めて人間による恐怖を植え付けられたのか、タマアザラシが何度も振り返りながら必死に逃げていきます。

 かわいそうだけど可愛いですね。

 もしかしたら人間に危害を加える動物というのはこうして生まれるのかもしれませんね。

 あっちの世界でもじっちゃん家の犬にいとこがジャンプ騎乗してたら犬が骨折して以来人に対して凶暴になったりしたりしましたし。

 まあ野生の畜生であるタマアザラシがどうなろうとどうでもいいんです。

 今俺は密輸の対価にこのヘラってる娘を使える状態にしてシアに献上しなければいけないんですから。

 今から俺はセラピスト豚野郎です。


「調子悪いみたいだな」


「すいませんスラン様。どうにも前の戦いの事が気になってしまって」


「見ていられん。私についてこい」


 とりあえず聖騎士にちょっかいをかけられないために薄暗い密室──会員制の意識高い系喫茶店に誘導することにしましょう。

 こちらが誘導するとローゼリンデがついてきました。

 いい感じですね。

 さて喫茶店にゴーです。

 見窄らしいデカ海パン豚野郎と白ビキニのたわわプラチナ髪美少女の組み合わせに道ゆく人が見つめてきますね。

 ここの住民は年中いつでもどこでも水着で常識など頭の中から滅び去っていることと思ってましたがちゃんと残存していたようです。

 あ、つきました。

 この無骨な鉄扉間違い無いです。

 ノックを5回すると渋い声が「ブーメラン」と言ってくるので、「パンツ」と会員が知ってる合言葉を言うとブーメランパンツの眼帯のおっさん──ここの亭主バンガードが扉を開けた。


「会員だな。入れ」


 本来ならサブクエストでカフェイン仮面とか言うファラスの親戚みたいなのを倒さなければ合言葉は手に入らないのですが、俺はすでに合言葉を知っているのでめんどくさいクエストスルーして直接ゴーできます。

 ここの何がいいと言うと会員制なので機密性があるのもありますが、ここで飲食できる食べ物にはヒロインに対して好感度アップ効果があることもあります。

 この邪悪の塊である豚野郎ではそのままスカウトしても不信感しか湧きませんからこいつで下駄を履かせてもらいたいと思います。


「座れ」


 ローゼリンデに上座に座ってもらったのでローゼリンデ専用好感度アップメニュー『愛愛アイス』を頼みます。

 どう見てもバカップル専用メニューみたいな名前で頼むのに精神的な負荷がかかりそうですが好きなもん好きなのでしょうがないので行きます。


「愛愛アイス一つ頼む」


 カン!


 注文したら鉄を叩く音が聞こえてきたので、注文完了です。

 厨房から炎が踊るかと思うと青い二つ棒の刺さったシェアアイスが出てきました。

 ゲームでは飯作る演出が一つしかないからしょうがないと思っていたがまさかこの世界でもアイスを作って炎が出るとは驚きですね。

 さてこのアイス二つに分けてシェアして食べなければ好感度が上がりません。

 こう言う系の割り箸みたいに割って分けるアイスって今までうまいこと割れた試しがないんですよね。

 まあ考えてもこんなもの綺麗に割れるわけがないので一思いにやっちょいましょうか。


 パキリ!


 うーんやっぱり綺麗に割れませんね。

 一つが鍵型で大きめ、もう一つは短冊型で小さめになりました。

 すいません、俺体積多いんで鍵型の方もらいますね。

 短冊の方をローゼリンデに渡そうとするとシュンと悲しそうな顔になっていく。


「冗談だ」


 急いで短冊を引き戻して、鍵型の方を渡す。

 機嫌を直して好物にご満悦ですね。

 俺のアイス……。

 気をとりなして俺も短冊を食べましょう。

 口がデカいので一口でなくなくちゃいました。

 一口で食べれるものってほぼ無を食ってるようなもんですよね。

 まあ美味しかったからいいんですけど。

 好感度も上がって下駄も履けたみたいですし、本題に入っていきましょうか。


「実はあの時私も戦場にいて貴様が何をしたのか見ていた。貴様が心ここにあらずになっているのはイクスを騙し討ちをしたからだろう?」


 俺が知っているとは夢にも思っていなかったようでローゼリンデは目を見開くとこちらを見つめてきます。

 目の奥が揺れているところを見ると内心ショックを受けているって感じでしょうか。

 身内には誰にも目撃されていないし、酷いことをしたのを漏らした覚えもないのに実はあなたの恥部を見ていましたよってなればこんなものか。


「沈黙は肯定と取っておこう。無論、貴様を責めているわけでも脅しているわけでもないし、私が見たものが全てだとは思わない。イクスを騙すのが本望なのならそうはならないはずだしな。あそこでのことを貴様の口から全て話せ。貴様が何に苦しんでいるのか知りたい」


「ですが……」


「ですがもヘチマもない話せ」


「……はい」


 人間後ろめたいことを話す時は誰でも抵抗があるものでローゼリンデも口を閉ざしかけたので多少強引に発破をかけて口の堰が崩壊するように促すと話し始めました。

 話し出すとファラスの悪行がまあ出るわ出るわ。

 まああのおっさんならて言うか教会ならしそうなことではあるんですが。

 内心ずっと話したいのを我慢していたんですかね。

 責任感が強いみたいですし、迷惑かけるかもと思ってたのかもしれません。

 俺から言わせれば自分以外の人間に迷惑かけても自分に返ってこないから好きなだけ掛ければいいのにと思わずにいられないんですが。

 泣いちゃってるし、よっぽど辛かったんですね。


「よく話してくれたな。お前は悪くない。お前を利用したファラスが悪い。アイスもう一本食うか?」


 むせているので背中を摩ってやって好物を食うかと聞くとこくりとうなづいたので追加で『愛愛アイス』をオーダーする。


「スラン様……」


 弱り目に祟り目で介護されて感極まったのか、この豚野郎の胸に頭を埋めてきます。

 抱きついてらっしゃるローゼリンデさぞやぷよぷよで抱き心地が良かろうと思うのですが私のワガママバストはあなたの涙と鼻水で構成された美少女汁でぐちゃぐちゃになっております。

 まあ今海パン一丁で服着てませんしいいいですがね。

 さてワダカマリが解けてメンタルも回復傾向にありますし、そろそろスカウトに移りましょうか。


「お前はイクスに謝りたいか?」


「それはそうですが。あのような裏切り方をされて彼はもう私の前にも人族の前にも姿を現すことは」


「手段は限られているがあいつに会う手段はある」


「それは一体どのような?」


「あいつが所属する第二王女派閥に貴様が入ることだ」


「確か第二王女派閥は教会と対立して。と言うよりもスラン様の所属する派閥にイクスが」


「そうだ。教会と対立派閥にイクスは私と共にいる。強要はしない。選べ。教会にこのまま身を委ねるか、イクスと向き合い、我々と教会とは違う形で世を救済するか?」


 とりまそれらしいことを言ってレッツゴースカウトしましたが行けますかね。

 信じたファラスに裏切られ、人間不信半分教会不信で好感度も下駄履いてるので行けるんではないかと思ったんですが。


「私はスラン様を信じたいと思います。私の知っているスラン様は決して人を犠牲にする方ではないですから」


 あ、行けましたね。

 普段ヘイトを溜めんようにとヘイコラしていた賜物ですかねこれは。

 とりあえずスカウト成功なのでシアから渡された渡すものを渡しておこう。


「これで貴様もキングスゲインの一員だな。シア様直通の魔道具だ。受け取れ」


「はい」


 はい、シア様の密輸代償ミッション完了でございます。

 期間も余裕ありますし、ローゼリンデを放流したら今日はもうダラダラして明日ロロナのところにいきましょうかね。


  ────


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