第33話 この時期にしか見られない貴重なもの



 あの後、疲労で限界を迎えたのでリリアンたちを拾って王都に直帰して現在一週間経ちました。

 大攻勢の現場は大量の鎧の残骸が転がるわ、村が燃えるわ、空気仮面がイクスを森にシューして超エキサイティングするわして酷いものでしたが学園は平和そのものです。

 ここにいると魔族領で現在イクスがシアにより魔王の配下になるように勧められて四天王になったとかで聖騎士が出現する場所で暴れ回っていることが別世界のことのように感じられますね。

 パワー系のモンスター飼ってる人あるあるで、そのうちシアも闇落ちイクスの手綱が取れなくなるような気がしてきて心配です。


「スラン様、おはようございます。先日助けていただいたディス村の村長です」


「スラン様、おはようございます。先日助けていただいてザット村の村長です」


「おはよう」


 心配事について考えていると爆弾魔の捜索のために怪しい奴を処した村の村長が挨拶してきました。

 この一週間は学園だけじゃなく王都に捜索を広げているのでこういうことがよく起こっています。

 普通に不法侵入なのですが学園の警備はどうなっているのでしょうか。

 親衛隊に村長が連れてきた村人まで合流したことで親衛隊の行列が軍隊の行進シーンにしか見えないものになってしまっています。

 もはや迷惑どころではなく親衛隊の後から生徒が歩いてくるものになってしまってます。

 もはやここまで来ると制御しようという気持ちすら失せてきました。


「イクスどこに行ったんだ」


 若干げんなりしているとイクスのルームメイト──タナカがキョロキョロしながら先を歩いている姿が見えました。

 彼はこの後発生する水着イベントの後、二回目の大攻勢の時にイクスの親友枠としてパッと現れて、「大切な人が死ぬ」という『預言』を知りイクスがヒロイン達に危険が死が及ぶのではないかと不安になっていると死ぬキャラです。

 大した活躍もしませんがどのルートでもこのために必ず出てきて雑に死ぬためプレイヤーからしたら下手なヒロインよりも記憶に残っているキャラです。

 最後の輝きを見せるためにアップを始めているというのにイクスがいないのでソワソワしているみたいです。

 残念ですが魔族領でイクスはエンジョイしていく予定なので君の出番はありません。


「イク──うああああ!」


「おはよう……」


 役目を失ったタナカを虚しいと思って見ているとイクスロスでどんよりしたヒロイン達に轢かれて吹っ飛んでいきました。

 ああ、この時期にしか出現しない貴重なタナカが……。


「おはよう」


 心ここにあらずで人に反応して反射で言っているだけだとわかっているが挨拶を返しておく。

 教会は大衆にはイクスがまだ人族の救世主のままにしていますが学園からは除籍しましたからね。

 ヒロインたちからしたら戦場でイクスを発見したらまさかの離れ離れになる結果になったのでショックでしょうがないんでしょう。

 ロロナも演技じゃなさそうな感じでげんなりしているのでファラスが言っていた親子だという話もあながち嘘ではないかもしれません。

 覇気がなくなりすぎてイクスをヤろうとしていた人間には見えませんしね。

 というかファラスがこの娘とそっくりだったから豚野郎がローゼリンデに変装してたというのがこの娘じゃない可能性が生じてきたですよね。

 というよりもあの胡散臭いおっさん(正確にはおっさんではない)ならそういうしょうもないことするの好きそうだからあっちの方な気がします。

 水着イベント中にロロナのイベントエリアに行って改めてこの娘の感じでも確認してみましょうか。

 それで知っている感じなら容疑解除、少しでも怪しければ視界が悪い肝試しで始末て感じで。



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