第32話 森林浴する豚野郎


 鬱蒼と茂る森の奥底。

 木漏れ日が優しい身体を包み込み、木々の優しい香りが都会の喧騒でささくれ立った心を落ち着かせてくれます。

 これが天然のアロマセラピーって奴なんでしょうね。

 たまには森林浴もいいものですね。

 聖騎士から逃れるために奥まで来たら、ちょうどファラスの戦闘でボロボロだった鎧が死んだのでやってみましたがやってみるものです。

 豚野郎はこの世界では不動産屋を金貨袋でブン殴れるくらいセレブなので学園近くの森を買い占めてもいいかもしれませんね。

 さて三分ほど小休止も挟んだことですし、二人の生死を確認しに行きましょうか。

 不安要因は迅速に潰したいですし。


 二人とも大破した状態でぶっ飛んでいったのでそこら辺に鎧の破片が落ちていそうなんですが。

 地面から確認するとちょっと効率悪そうなので、飛んで俯瞰してみましょうか。

 赤い鎧の破片がありますねえ。

 イクスは途中で木にぶつからずに割と奥の方までぶっ飛んでいたようです。

 破片の散らばり方からある程度予想をつけて歩いていくとダルマのイクスの鎧──『紅蓮真紅』の姿が見えます。

 コクピットが空のところを見ると生きているようですね。


「うああああ!」


 どこに行ったんだと思うと割と鎧のすぐ近くで黒い靄を噴出しながら四つん這いになって唸っているのを発見しました。

 パチンコで金全部擦って絶望する人みたいです。


「喧しい。静かにしろ」


「お前は……」


 このままバカデカ唸り声を上げるとファラスが生きてたらダッシュして来そうなので黙るように言うと二日酔いしたような酷い顔つきでイクスが見上げて来ました。

 プロ社畜ならギリ働けるくらいの顔ですが、一般人はアウトゾーンの顔です。

 なんか大切そうな村ファイヤーされて、メインヒロインにブッコロされかけたので精神的にかなり来ているぽいですね。

 メンタルはあれですが体はセーフなので無事保護できたことにしましょう。


「シア様、現在救世主を保護し、共に近隣の森に身を隠しています」


『よくやりましたスラン。あなたの仕事はこれで完了です。現在撤退命令が出ており、軟禁状態は解除されているのでそのまま王都に戻ってもらって構いません。救世主に通信の魔道具を渡してくれますか』


「御意」


 イクスに通信の魔導具を渡そうとするとか攫っていきました。

 ひったくりにあった気分です。

 びっくりするのでやめてほしいです。


「お前に協力する! 教会を地獄に堕とすと誓え!」


 何をするかと思うとイクスは血走った目で通信の魔道具に怒鳴り声を上げ始めました。

 側から見たら復讐心から悪魔の手を取ろうとしている人にしか見えません。


『フフフ、覇気に満ちた良い声です。ええ誓いましょう。必ず私が教会を地獄に叩き落とし、真の王として王国を統治すると。そのためにあなたはそこから魔族領の奥深くに逃げて力を貯めなさい』


「わかった」


『素晴らしい!』『歴史の動く瞬間を見ている!』『教会も年貢の納めどきだ!』


 イクスはシアから命令を受けると近衛騎士のヘイコラボイスを残してダルマになった『紅蓮真紅』に乗って魔族領の奥に向かって飛んでいく。

 若い子って元気すね。

 もう王国の学園でイクスが何かするのは無理なんでストーリーの大筋なぞるのはむずそうですね。

 まあどうにもできんし、わからんなりに上手くやるしかないか。


 さて再びボッチになったので聖騎士達がイクスとファラスの捜索に来る前にファラスの生死を確認したいですね。

 結構ぶっ飛んでったんで割と現在地から近くにいそうな感じはするんですが。

 再び『飛行』で浮かんで俯瞰してみる。

 若干木の間隔が空きすぎている場所がありますね。

 少し離れているが見に行ってみましょうか。

 見に行ってみるとビンゴです。

 半ばバラバラになったファラスの乗ったモブ聖騎士鎧と倒木。

 ぶっ飛ばされた後に木に激突してここに着地したみたいですね。

 おそらく常人なら死んでもおかしくないはずなんが、空になったコクピットには血と仮面の破片しか存在しません。

 おっさん体が魔石になって体弱いとか言ってたのにその逆ですね。

 理由があって仕事してないと思ったらただのニートですよ。

 近くにいないかと周りをみると血に濡れたファラスの仮面や衣服が近くの泉の前に放ってあるのを発見しました。

 光魔法で回復しても血とかどうにもならんので泉で血を落としているみたいですね。

 泉の方に目を向けてスーパーセクシータイムに突入するファラスの方を向くと空中にイクスが終盤に覚える極大魔法『紅蓮紅炎陣』──爆発し超広範囲を焼き払う炎弾の連なりと、マッパの姫騎士みたいな顔をした女がいるのが見えました。

 おっさんがいると思ったらロロナがいました。

 空気仮面の中身お前かーい。

 極大魔法展開された状態で警戒してるのでこっからヤルのはきついですね。

 成功してもカウンターで豚野郎の丸焼きになります。

 と言うか何で君が救世主が使う技使えるんですが。

 信仰とかあれで神様から優遇されてるんですか。


「うん、なんだ君かね。撤退したと思ったが姫殿下に様子を見て来てくれとでも言われたのかな」


 こっちに気づいたようでヒヤリとすると普通に話しかけてきます。

 正体バレても落ち着いてると言うか、声渋いおっさんのままだし、マッパのままですね。

 ナイスバディで顔良いのに声がおっさんなので脳がバクりそうです。

 まあなんか殺しにきたと思われてないようなんで調子合わせて、ロロナじゃないすか何やってるんすかって聞来ますかな


「そんなところですが。何やら理解のできぬ状況なので質問しても?」


「ああ、構わんよ」


「聖騎士長が学友と瓜二つのような気がするんですが?」


「ロロナのことだね。私はあれの親だからね。見られるとすぐに血縁関係にあると悟られるので仮面をつけていたんだよ。敵に弱点を見せんためとはいえ悪かったね。魔石の病などと言って騙してしまって」


 親子?

 どう見ても同年代と言うかロロナご本人しか見えないんですが。


「言っては何ですが親と言うには若すぎる気が」


「毎日回復の光魔法をかけられて老化を極端に遅らせられているからね私は。父上の意思でね。魂だけが男の紛い物だがそれでも親心で娘には幼いままでいて欲しいのだろう」


 そういえばそんな設定回復の光魔法にあったか。

 光魔法の適性を持つ人間が少ないというのに貴族の子女達が光魔法使いを美容のために囲うために市井の人が光魔法の恩恵を受けられないとか何とか。

 まあ設定があってもあなたが本当のこと言っているわけじゃないんですが。

 と言うか見れば見るほど同一人物にしか見えん。

 そうすると俺の視線に気づいたようでファラスが苦笑する。


「こんな見苦しい格好ですまないね。先ほど救世主の説得の際に魔族から襲撃を受けて血だらけになってしまってね。血で視界が塞がるために血を洗い流す必要があったんだ」


「それで魔法浮かべながら泉で体を清めていたと」


「そうだ。全く酷い目に遭ったよ。あれを倒せるとしたら君くらいのものだろう。どうだね、今から聖騎士になるのは? 私としては君にこちらに来てもらうと助かるのだが」


「申し訳ありませんがお断りします。父からの忠義を捨てることはできませんので。では」


 聖騎士なんて嫌ですよ。

 ゲスイことのオンパレードですし、あなた胡散臭いですもの。


「何度もすまないね。道中気をつけたまえ。まだ魔族がいるかもしれんからね」


 もうここでできることもないし、たったと帰りましょうか。

 


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