第31話 聖の喜びおじさんに追われる豚野郎
強い奴に会いたくて。
スランに勝つために修行しようと思い立ったイクスは救世主という立場もあり、人とは戦えないので、強い魔族を求めて魔族領に向かった。
昼も夜もなく強い魔族と命をかけて死闘をし、イクスは劇的に成長していたが、途中暴力衝動の塊のような災害級のモンスターと戦う羽目になり、勝つには勝ったが力尽きその場で行き倒れてしまった。
敵地のど真ん中。
ここで朽ち果てるかと思うと敵であるはずの魔族の少女により救われた。
決して裕福な身の上ではない、どちらかというと貧窮しているはずだというのに、敵である人族の自分を全てのものを投げ打って救ってくれた。
一人の少年に勝つために、救世主としての面子を守るために、わざわざ魔族領に出向き魔族を襲う自分という人間がひどく浅ましく思えた。
命を救われたのもあるが、この少女のことがひどく尊いようなものに感じられた。
彼女のために力を尽くそう。
そうイクスは心の奥底から思った。
救世主でも強い漢に憧れる未熟者でも何者でもなく彼女のために働くうちに人族であるというのに分け隔てなく接してくれる彼女の村の人とも打ち解けた。
そんな気は無かったが、気づくと魔族の少女──ミリィと体を重ね愛し合っていた。
彼女と過ごす日々が幸せで日を忘れ過ごしていると、聖騎士たちが侵略しにきた。
彼女と村の人に交渉をすると言い、心配そうな顔をする彼らに見送られイクスは現在聖騎士の大群の前に立っていた。
「きっと俺が分かり合えた。他の人族だって分かり合えるはずだ」
そう信じ、自分の言葉が伝わるはずだと思っていると白い鎧──『白雪蒼白』が聖騎士の中からイクスの元に進んできた。
『イクス! 侵略は止め撤退することになりました! よろしければ村に案内していただいても?』
『ローゼリンデ! ああ大丈夫だ! 村の皆も歓迎してくれるだろう!』
やはり言葉を交わせば分かり合える!
そう思い目と鼻の距離まで近づき、村に案内しようと思うとローゼリンデが不意をつくように剣をふるい、聖騎士たちが村に向けて魔法を放った。
手練れとの死闘から反射から体が勝手に動いただけで何が起こっているのか理解できなかった。
何がと思い村の方を向くと、燃え盛る村とミリィが村の子供たちを庇い瓦礫に飲み込まれる様子が見えた。
無情にもそこにまた魔法が打たれ子供と瓦礫もろとも吹き飛んだ。
ミリィが死んだ。
ドス黒い何かが体の中で蠢くと感じると体が熱く、頭が冷えていき、全て理解した。
人族が騙し討ちをし、善良な魔族の人たちの暮らす村が壊滅した。
「これがお前の! お前たちの答えか!!」
怒りと憎しみで視界が真っ赤に染まる。
『ち、ちが……。私はこんなの知らな……。ご、ごめんな──』
目の前のローゼリンデを剣で切り捨てる。
ドス黒いものが体の中で溢れると思うと、黒い靄が体から噴出していく。
『なんだこの邪悪なものは! 穢らわしい! やはり救世主などでは無かったか!』
聖騎士がイクスに殺到し物量で押し潰そうとしたが、黒い靄に触れて全員頽れていく。
「俺はこんなもののために多くの魔族の血を流して!」
イクスから一際強く黒い靄が噴出して周りを黒く染め上げる。
『うわあああああああ!?』
聖騎士たちが怯えながら魔法を乱射し始めた。
『絶対に近づくな! 常に距離を取りつつ魔法を叩き込め!』
現場で指揮をとっているラウンズのロンバートの声が響くと、イクスは魔法によって鎧が削れていくのも無視して破壊衝動のままに暴れ始めた。
──
平和に解決すると思うとローゼリンデが剣でスラッシュして、イクスの言っていた村が燃え大変なことになっております。
「陛下。イクスに対して教会側が聖女とともに攻撃を始め、イクスが乱心しました」
『酷い状況ですね。担いでいる救世主を殺そうとするとは一体何をやっているのですか教会は。ここで救世主を潰されては困ります。どうにかできそうですか?』
できるわけないですよ。
丸腰だっていうのに。
もうこうなったらイクスが逃げて、イクス死亡ロシアンルーレットを回避することに期待するしかないんですよ。
「あんなところに放棄された魔族の鎧が!?」
イクスと聖騎士、ワンチャン地面に倒れてニートしているローゼリンデが参戦しそうな戦いを観戦しようと思うとリリアンが騒ぎ始めた。
見るとコクピットが開いた状態で無傷の魔族の鎧が野原にポツンと鎮座していた。
いやそうはならんやろ。
意味不明ですよ。
なんで魔族の鎧がこんなところにあるんですか。
搬送中に落としたとか何かですか。
『放棄された魔族の鎧ですか。スランそれなら我々だと認知されません。それを使って救世主を保護してください』
リリアンの声が聞こえていたようでシアから追加オーダーが来ました。
若干疲れてモチベがクソですが聞こえてしまったものはしょうがありません。
「御意」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。イクスをダルマにして回収した後雑魚どもから逃げるだけだからな。お前は先に陛下の元に戻っておけ」
はい。秒で追加オーダーを片付けに行きます。
魔族の鎧に乗って聖騎士とイクスたちの元にゴーです。
一応人族の鎧も魔族の鎧も精霊鎧を元にしている設定があるので基本的には同じはずですけどパワーセーフティーはどうでしょうか?
ありました。
たたっと片付けたいので『障壁』を掛けてから外します。
加速したおかげですぐ着きましたね。
とりま聖騎士たちが邪魔なので挨拶に『鎌鼬』をばら撒きます。
『ぎゃああああああああ!!』
『いきなり魔法が!?』『どうなってる?』
『おのれ! 雑兵どもにも見えずとも私には見えるわ! 死に損ないの魔族が!』
指揮官ぽいのが通せんぼしようしてきたので、上級光魔法『光刃』──この世界のビームサーベルもどきを両手足に展開して駒みたいに回転してバラバラにします。
『グアアああああああ!!』
光刃は反動が生じないのでパワーセーフティー外した状態と相性いいんですよね。
最近思いついた組み合わせですがちょっと考えればすぐ思く程度のものなので、脳死せずに考えとけばよかったですね。
『うおおおおお!!』
イクスが聖騎士に夢中でハッスルしてこちらに気付いてないのでこのまま光刃で仕留めたいと思います。
『うん?』
あ、途中で気づきましたね。
まあもう遅いですけど。
『ああああああああ!!』
イクス、ダルマにしたので逃げます。
前みたいに黒靄が出てるのでなんか煙幕に使えそうですね。
叩いたらもっと出ませんかね。
出ましたね。
黒靄がいい感じに煙幕になっているので照準もつけられないし、触れると気絶するので追跡しづらくなったはずです。
近くにちょうど良さそうな暗い森があるのでイクスをぶん投げて帰りましょう。
流石に聖騎士も魔族が駆けつけてくるので魔族領の森で長く粘れんはずですし、イクスは1週間くらい飲まず食わずでも大丈夫ですからね。
これで万事解決です。
『クソ! 黒靄で進めん!』
『どきたまえ。神に仕える聖の喜びを知って日が浅い君らにはそれは荷が重かろう』
『ファ、ファラス様!』
もう終わりですかねと思っているとイクス闇落ち煙幕を聖の喜びとか言いながらファラスが突っ切ってきた。
あなた鎧乗れないんじゃ無かったんですけ?
まあなんでもいいですけど、追っ手はノーセンキューなので落としますね。
『鎌鼬』を嗾けると、ファラスのモブ聖騎士鎧から光が溢れ出しかき消された。
なんか嫌な予感しますね。
逃げつつ様子を見ると鎧から出た光が紋様を描き始めました。
ああ、やっぱりオリジナル魔法ぽいです。
このおっさんのオリジナル魔法など俺は知らないので完全初見です。
まずいですね。
そう思うと、光の紋様が弾け360°に光弾が飛び散り、光の柱がランダムに発生し始めました。
あーあ、弾幕ゲーみたいになってます。
もう別ゲーですよこんなの。
あ、やべ。
イクスを持って挙動が重くなってるの考慮してなかったのでちょっと当たりそうです。
許せイクス。
『グアアあああ!』
『最近の魔族は思い切ったことをするものだ』
肉盾イクスガードを使うとイクスが森の方に吹っ飛んでいき、ファラスが動揺したので光刃大回転で始末にかかる。
地味に手練れのようでバラバラにできず、右腕を刈り取る程度で止まってしまった。
『やるじゃないか。君はいい騎士のようだ。人族の脅威になる前にここで死んでもらおう』
余裕そうな態度でなんですかと思うとファラスが四体に分身してこちらに向けて殺到してきた。
邪魔くさいなと思い、『光刃』で四体を切り付けると『鎌鼬』を本物のファラスに放つ。
『これにも対応するか。お忍びでやってきた魔王本人かね君は』
四体の分身が消え、避け損なったファラスの鎧の両足が吹き飛んでいく。
あれ俺の両腕が何故か吹っ飛んで、半分視界が塞がれたんですが。
今のもオリジナル魔法で攻撃反射してくる奴か。
結構オリジナル魔法持ってますね。
ボスキャラクラスですかねこの人。
新しいの発動されても嫌なので先手取って一気に決着つけるか。
『流石にブランクがありすぎたようだな』
鎧の破損考慮せずに悪質タックルのヘッドバッドバージョンを決めると、ファラスの鎧が凹んでバラバラになって飛んでいく姿を最後に視界が暗転し、魔力増幅機構が全損した警告と魔石にも一部損傷ありの警告が表示される。
俺の突進と同時であの弾幕魔法放ってきたのか。
やりますねえ。
鎧は確実に壊したが、飛行して宙に浮いてて衝撃が逃げた可能性があるので鎧の中身がどうなったかわからないな。
直接目視で確認するしかないか。
コクピットを開いて目視で確認するとファラスの鎧の残骸の一部が発見できるだけで他には近くには何もない。
大元のコクピット付近はイクスと同じように森の方にぶっ飛んでいたか。
二人とも生死不明ですけど、生きてて二人ともバッティングしたらファラスにイクスが始末されそうだからな。
保護しろって言われてるからブッコロされて報告されたらシアにキレられそうなんですよね。
状況的に死んでも怪しまれない状況で、しかも例え容疑が出ても魔族のせいにできる今、確実にファラスを始末したいというのがありますし、森にゴーしますか。
『まだ回り込めんのか!』
『申し訳ありません! 靄の範囲が広く!』
森にいくかと思うと靄の向こうから聖騎士の声が聞こえてくる。
あ、そういえばモブ聖騎士にも追われてたな。
とりあえず鎧を発見されないために森の奥行ってから、ファラスとイクスの生死確認しましょ。
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