第27話 豚野郎専用鎧




 馬車に乗って2日ほどすると大攻勢の戦端が開かれる魔族領との境界線に到着した。

 途中モンスターや盗賊に襲撃されることがあったが大事なく到着できて良かった。

 野営地では先にこっちに到着していた聖騎士やシアの近衞騎士団が長距離移動で魔石──動力を使い果たしたようで魔石を交換作業を忙しなく行なっている。


「精霊鎧持ちはいないようだな。教会が所有していると聞いていたが」


 魔石の交換作業を眺めて目ざとくリリアンが言う。

 精霊鎧の場合は精霊石という周囲のマナを常時取り込み魔力に変える無限動力があるため魔石交換作業が必要ない。

 だから交換作業の様子を見れば精霊鎧かはすぐわかる。

 このイベントで出てくる精霊鎧はイクスの持っている『紅蓮真紅』とローゼリンデの『白雪蒼白』だけなので、二人がいない現状リリアンが言った通りここにはゼロだ。

 ぱっと見で把握するとはアマゾネスというだけあって動体視力が半端ないな。


「救世主はお見つかりになりまして」


「未だ見つからず。人々を導くという大言を吐いておきながらこのような醜態を晒し、お恥ずかしい限りです王女殿下」


 はえー本格的に戦争やるって感じしますねと思うと、野営地のデカテントのある方角から聞き覚えのある声が聞こえる。

 見るとシアが勝ち誇った顔でファラスを詰っていた。

 教会が困っていることもあって陛下は大変ご機嫌そうですね。


「すまんが、お前らは先に荷下ろしをしておいてくれ。俺は指揮官に挨拶に行かねばならん」


「は、はい。畏まりました。侯爵様」「承知しましたご主人様」「うむ。任せておけ」


 馭者おじたちにあとは任せるとシアたちの元に挨拶にシュパる。


「お久しぶりです。シア様、聖騎士長」


「スラン来ましたか。すいません、彼と話せねばならないことがあるので。続きはまた今度」


「そうですか。では邪魔者の私は速やかに退場させて頂きましょう」


 悪質クレーマーシアから解放されるとそそくさとファラスが逃げていく。


「失踪した救世主には後でご褒美をあげねばなりませんね。スランこちらに」


 笑みが抑えられないようで口元を扇子で隠すと先導してくる。

 鎧の元に案内してくれるようだ。

 今の所見える鎧にそれらしいものは存在しない。

 食料や鎧の補給物資を積んだコンテナの方に向かうところを見るとわざわざコンテナに積んで持って来てくれたようだ。

 気を使ってくれたみたいなのでヘイコラしとくか。


「コンテナで運んでいただいたのですか。私のような者にそこまでして頂けるとは至福の極みにございます」


「はい。この鎧は並の騎士ではまともに動かせませんから」


 まともに動かせない。

 非常に嫌な予感がしますね。

 キワモノでしょうか。


「シア様、そちらが『東雲』の乗り手となるお方でしょうか?」


「そうです。アーノルド、彼に『東雲』の説明を』


「承知しました。ではスラン様。『東雲』のスペックの紹介を」


 アーノルドと言われた開発責任者ぽいおっさんが専門用語を交えて紹介してくる。

 何を言っているかふんわりしか分からんが、要は悪質タックルを200%以上の出力で繰り出せる悪質タックル専用鎧を作ったらしい。

 いや、何やってるんですか。

 よりにもよって強化する方向性をネタ鎧専用のネタ技に全振りしちゃってますよ。

 確かにシアたちの知ってる村の戦いではほとんどの鎧を悪質タックルでやっていたがあれはあれしかなくてやってるだけで好きだからやっているわけじゃないんですよ。

 こんなのその場限りのしんどい宴会芸を勘違いされて十八番みたいな扱いされて毎度の宴会でお約束扱いされるものだ。

 吉本新喜劇の芸人じゃないんですから勘弁してくださいよ。


「素晴らしい鎧だ(棒)」


「ははは! さすがあれほどの戦い方をされる方は違いますな! 早速お乗りになられてお試しになられてください!」


 なにわろってんねん。

 欠片も素晴らしいと思ってないですよ。

 あなたの作った鎧、通常状態がパワーセーフティ解除した状態と同じですからね。

 普通の人はちょっと動くだけでGで死にますし。

 動く処刑装置と言っても過言ではないですから。


「これは!?」


 とんでもないですよと思っていると試乗のために開かれたコンテナから眩い光が生じ目を潰す。

 鎧になにが起きてるのかと思うと太陽の光を反射して輝いている黄金色の鎧の姿が見えた。

 真っ金金で草。

 派手すぎますよ。


「ふふふ。やはり王の色の鎧は威厳に溢れていますね」


「もしやシア様が色を……」


「いえ、この鎧の特殊合金の地の色です。塗装を受け付けないもので。申し訳ありませんスラン様」


「いやそれなら仕方ないが」


「お寛大な心に感謝します。どうぞお乗りになってください」


 シアのクソカラーリング疑惑が晴れると金ピカ鎧こと『東雲』に乗る。

 特に他の鎧と変わらないようだがパワーセーフティーのところがオーバーライドと名前が変わっている。

 もはや搭乗者の安全を保証するのはやめたようだ。

 普通に動かした後に試すか。

 まずは『障壁』をかけて通常運転と。


 若干パワーセーフティを外した他の鎧よりも早く動きますね。

 まあこれくらいなら許容範囲です。

 じゃあさてなんかあれそうなオーバーライドを使ってみる。

 はい早すぎてもはや動体視力が機能しないです。

 これは事故ります。

 追加で上級光魔法『光速化』を使ったほうが良さそうですね。

 ああちょうどいい感じです。


 一応魔導フレーム技術とか言うフルオートで光魔法の『強化』をかけて頑丈さを補強する技術があると言うことで、そのままオーバーライド状態で地面にグーパンやキックを調子を確かめる。

 普通の鎧ならこんなことすれば腕や足が反動に耐えられずにぶっ壊れるが、全く問題ない。

 頑丈さもOKと。


 動きや頑丈さを確認できたので次は魔力増幅機構について確認する。

 極大魔法『極大強化』──全ステータス超強化する極大魔法を使うと問題なく使えた。

 極大魔法まで使えるとはかなり性能がいいな。

 確かにこれならシアが精霊鎧とも戦えると言うのは分からんでもない。

 少しだけ使っただけで目に見えるくらい魔石──を消費することくらいしか弱点はなさそうだ。


「まさか本当に乗りこなせるとは….」


 試運転を終えて降りていくと開発責任者おじさんが驚いていた。

 人に乗れんと思うものを作らんでくださいよ。

 まあ悪くはなかったですが。


  ────


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