第23話 コロシアム史に残る新王者
イクスの鎧が回収されて決勝の剣闘王が来るまで剣闘場で待つ。
「ここが悪いのよ! ここが!」
手持ち無沙汰だと思って観客席の方に目を向けると鎧から下ろされたイクスが吊るされて、ヒロイン達に股間を棒で小突かれているのが見えた。
股間はやめてあげて、エロゲ主人公からブツを奪ったらもう何も残らないから。
せめてもの救いはイクスが伸びて、意識がないことか。
準決勝勝ったから普通に決勝の剣闘王と戦うことになったな。
これまでの剣闘士みたいに厄介な魔法を使っているとかじゃなく、あいつは単純に強いからな。
割とブランクがあるからいけるかどうか微妙だ。
まあ別に負けたからどうというペナルティがあるわけでもないし、腕試しくらいに思っとくか。
『本懐を遂げた『イクスの浮気野郎』VS無敗の剣闘王『リリアン』! ここまでベテラン剣闘士を打ち破り、救世主までをも倒したビッグルーキーがついにこのコロシアムの絶対王者に挑む! 不貞救世主を断罪してなお戦うのは優勝して名を売って不貞の事実を広げる野望でも持っているためなのか! いざ尋常にファイト!』
リリアンの茶色の精霊鎧『獅子王』と同時に剣を構える。
さて確実性重視で後手に回って立ち回るか。
──
勝負が開始したがリリアンは動けなかった。
先ほどまでの戦いぶりから相手が自分以上の手練れだと確信していたからだ。
先に動けば確実に負ける。
「侮れない! 『イクスの浮気野郎』!」
両者ともに一ミリも動かない。
『どうした? 動かないならこちらから行くぞ』
しばらくすると痺れを切らしたようでスランが動き始めた。
少し動けば経験からどう動くか、予測できるはずなのだが、この剣闘士相手の場合はまるで機能していない。
わからない。
どう出るのか。
これでは後手に回った意味がない。
判断ミスを悟り、リリアンの額から汗が伝う。
戦士としての本能も戦うな、逃げろと警鐘を鳴らしている。
だがここで逃げるのは互いの矜持を賭して戦う剣闘を侮辱することになる上に、誇りを捨てた臆病者として簡単には消えない汚名を残すことになる。
逃げることはできない。
後手がダメなら先手に移る他ない。
「わからないなら闘技場全てを攻撃してやる! お前より早く!」
必殺の一撃──闘技場全域に不可視の斬撃を放つオリジナル魔法『獅子王殺』を放つ。
こちらに向けてくるスランはまるで初めから分かっているように、不可視の斬撃のわずかな隙間に身を滑り込ませるようにして避け、あまつさえ加速して近づいてくる。
そのまま剣を振るうかと思うとコマのように空中で回転し始めた。
「なんだこれは!?」
神がかり的な回避を見せた後の意味不明な行動に驚愕するとスランの鎧の四肢から突如光の刃が生じて四連刃となって襲いかかってきた。
窮地。
防御をすれば勢いを乗った四つの刃を止められることもなくそのまま寸断され、回避を取れば未だ生じている『獅子王殺』に被弾し、自爆する。
剣で受け流し、技巧で凌ごうとすると何かが飛んできて鎧の視界が暗転し、行動不能に陥る。
「鉄剣……」
飛んできたものがスランの鎧が持っていた剣だと悟ると、後から来た四つの光の刃によって『獅子王』がバラバラに砕け散る。
暗転したコクピットの中で迂闊だったと悟る。
回転と光の刃に対して気が動転して、元々持っていた剣を忘れるなど。
剣は投げるものでないし、光の刃に遮られ隠れていたと言う言い訳も出てこないわけではないが、これ以上考えるのは惨めなだけだと悟り、思考を切り替える。
相手の術中に嵌り、負けた。
純然たる敗北。
勝利が当たり前だと思い、鍛えることをやめていたこれは今までのつけだ。
──
『絶対王者『リリアン』初黒星! 『イクスの浮気野郎』の勝利! 不貞救世主をジャッジメントするだけでなくコロシアムの歴史を塗り替えた! 新王者『イクスの浮気野郎』! きっと彼の名前は後世のコロシアム史に残ることになるだろう!」
「安牌に賭けたら全部スカじゃねえか! 今日はどうなってんだ!!』「やったぜ! 『イクスの浮気野郎』!」「おめでとう! 『イクスの浮気野郎!』」
割と勝ってたな。
苦労した記憶があるから思い出補正で必要以上に強く見積もってたかもしれない。
「スラン君ありがとう!」
鎧から降りるとイクスを担いだヒロインたちがエーデを筆頭にやってきた。
「ふん! これでイクスも二度と浮気できないはずよ! よくやったわね豚! ご褒美に靴を舐めさせてやってもいいわよ!」
「ほいこれ! 君に賭けてた五人分のお金! お金持ちだから端金もかもしれないけどあたし達の気持ちね!」
チワワは可愛いなと思い、ルリアの靴を本当に舐めてやろうかと思うと、ロロナがやたら重い金貨袋を渡してきた。
仇だとわかってても媚を売ってくる子は可愛いですね。
始末する予定だけどもしかしたら蚊ほどしかない良心がことを終えた後に痛むかもしれません。
「誤りを直し、正義を貫き通す! あなたこそ真の英雄です!」
「うむ。よくやってくれた。イクスの不貞の事実が広まれば、王国内の人間がイクスの動向に目を光らせるからな。そうなれば他の女に手を出そうとした段階で叩ける」
ローゼリンデがいつも通りヘイコラすると、ヒビキが恐るべきイクス浮気撲滅計画の全貌を語った。
イクス君も幸せ者ですね。
俺は彼女達ならおそらく墓場まで一緒に居られるんではないかと思います。
「改めてありがとね。じゃあ、イクスとあたし達はこれから話し合いだから」
「達者でな。貴様らならうまくやっていけるだろう」
エーデが別れの言葉を言うとイクスをドナドナしていく。
イクスは冤罪だがきっと全てが終わった時、浮気を想像するだけで吐き気を催すような模範的な主人公になっていることだろう。
「お疲れ様でした。スラン」
さて鎧返したら帰るかと思うとシアがやってきた。
ニコニコしているので、イクスの強さがいかほどのものか見れてご満悦らしい。
「1週間後、魔族への大規模侵攻作戦に参加してもらう予定ですのでその時は、完成するあなたの専用鎧共々よろくしく頼みますよ」
1週間後に作戦ね。
最初の敗北イベか。
主人公たち一派は勝つがそれ以外は大敗すると言うイベントだ。
預言で敗北するとなっているので、後々わざと敗北したとわかるイベントだが主人公サイドが魔族許せんわとなるイベントで結構大事なイベントだ。
シアからすると預言をずらすために俺とイクスを酷使したいといったところか。
俺については適当にやるからいいとしてもイクスが心配ですね。
頑張りマンモスし過ぎて死なれても困るし、それとなしに敵を間引きしとくか。
「ご期待に応えるよう尽力させて頂きます」
「あなたの活躍に期待してます。では」
シアは圧を掛けると馬車に乗って帰っていく。
最終的には国より主人公を取るのだが、今から真の王ぶりが半端ないな。
宇宙世紀ものならデカ扇子持って戦艦動かしてそうだ。
「助かった」
「獅子奮迅の戦いぶりだった。貴殿と戦場を駆ける日が楽しみだ」
鎧返却完了。
もうやることは全て終わったな。
「『イクスの浮気野郎』は貴様か?」
そう思うとコロシアムの方角から剣闘王ことリリアンが近づいてきた。
リリアンが近づいてきたということはグヘヘイベント発生か。
グヘヘ発生しても俺の現在の豚野郎ボディは鈍重すぎておそらく全く楽しくないんだよな。
「アマゾネスの流儀で自分を打ち負かした男とは子作りすることになっている。お前とヤりたいが問題ないか?」
「問題ありだな。貴族の私が正妻になるつもりのない女と子を作っても醜聞にしかならん。私は疲れた。ではさらばだ」
異世界港区女子とはおさらばです。
俺は家に帰って、飯食って、寝ます。
────
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