第13話 ヒロインたちの好感度が上がりました



「すごい!」


 決闘が行われるということで、イクスと共にいたヒロインたち──エーデたちも見にきていた。

 興味というよりも自分たちのために宣戦布告したイクスへの義理からだったが、気づいたらイクスたちによって行われる卓越した戦闘に釘付けにされていた。

 魔法の魔力制御と鎧の操作を同時に行わなければならないためエース級の鎧乗りでも一部しかできないとされる魔法と鎧の並列操作をしているイクスもすごいが、難なくそれに対処するスランも凄かった。

 いつもイクスに小突かれて逃げるスランが鎧に乗るとここまでやるとは思わなかった。


「おいイクス賭けてんだぞ何やってんだ」「よしやれ豚野郎! 俺を億万長者にしてくれ!」「やばくねえかあれ」「救世主のイクスはわかるけどなんでスランの方はあんなできんだ?」「スラン様ギタンギタンにしてください!」「ご主人様相手のことなど気にせず本気におなりになってください!」


 予想もしてなかった接戦に会場も盛り上がっていた。


「ありゃスラン君。手抜いてるね」


 前のめりになってエーデが見ていると想いもしなかった言葉を至近距離で聞かされてギョッとする。

 見ると顔だけは姫騎士みたいな残念女──ロロナが賭け券を握って隣に座っていた。


「いつからいたの、ロロナちゃん」


「さっき。今日はコロシアムに行って賭けして来ようと思ったんだけど第六感みたいなやつがビビッと働いて学校に来たら案の定だよ」


「第六感ってすごいね……。ちなみにどっちに賭けたの?」


「スラン君」


「え〜……」


「ギャンブルは非情だからね。身内贔屓はできないよ。スラン君は眉唾かも知んないけど生身で鎧に乗った魔族をズバズバやっつけたていう噂があるからね。噂が本当だと考えれば圧倒的にスラン君の方が強い。レートがバカ高になっている今スラン君に賭けない理由がないよ」


 イクスが自分たちのために決闘に挑んだことも知らずにリターンの大きさに目が眩んでスランに賭けるロロナに呆れると伯爵家の令嬢でプライドの高い赤髪の少女ルリアが口を開いた。


「ロロナ、あんた最低ね。ところで。聖女知らない? 自分のせいでこうなってるくせにさっきから姿が見えないんだけど」


「ああ、今日はゾエナ村でチャリティーだって言ってたよ」


「自分のせいでこんなことになってるのにほっぽいて仕事に行ったんだ。頭沸いてんじゃないの。ロロナあんた聖女と仲良いでしょ。注意しなさいよ」


「やだよ。ルリアがビビって言えないからってなんであたしがメッセンジャーしなきゃいけないのよ」


「あんた!」


 ロロナが図星をついたせいで、ルリアがキレて掴みかかろうとした。

 が体躯の差で同級生の中でも一つ頭抜けて大きいロロナの方の腕が先にルリアに届き、デコを抑えられたルリアが歯軋りした。

 成犬と子犬の喧嘩みたいだとエーデが思うとルリアの抵抗により生まれた振動でロロナの懐から表面に数値が表示された黒い箱のようなものが落ちた。

 それはスランの訓練鎧に設置された時限式の爆弾だった。


「落ちたよ」


「ありがと」


 しかし一介の学生であるエーデがそんなことを知るわけもなく懐のポケットに甲斐甲斐しく戻す。

 決闘後のスランがこの光景を見ていたならば、「馬鹿もん! そいつが犯人だと!」と叫んだことは間違い無いだろう。


「二人ともしょうもないことで喧嘩してないでイクスを見てあげなよ」


「そうだ。見ることさえできないのか君たちは」


 このままにしてもしょうがないと姉御肌のエーデが一肌脱ぐと黒髪の少女ヒビキが冷めた表情で追従する。

 先ほどから真面目なたちから目に焼き付けるように見ていたようでヒビキがマジギレしているのを態度から察した一同も流石にこれ以上はまずいと黙る。


 会場に目を戻すとより白熱しているようでイクスの強力な魔法を封じるためか、スランが至近して剣を振るい、イクスがそれに応戦していた。

 一瞬の隙が致命に繋がりかねない剣撃の応酬に生徒たちから歓声が上がる。


「うわ、すご」


 学園でそこそこ上位の成績を取っているエーデとてここまでハイレベルな戦いを見たことがなく心底すごいと思う。

 二人の腕に舌を巻くとついに一瞬の隙が生じたようで、イクスの風魔法の刃がスランの鎧の左手を飛ばした。


「わざとやられたね。そろそろかな」


 賭けているからか、ロロナがそう贔屓目にスランの負傷を評し、戦いが終わることを察するようなことを言うとスランの様子が変わった。


 エーデたちがハイレベルだと思った先ほどの戦いを超えるような動きをし始めた。

 同じことをしているはずなのに滑らかすぎて脳がバグる。

 同じことをしているはずなのに全く結果が違う。

 移動速度が爆発的に上昇したスランに対してイクスも違和感を抱いたのか、攻撃魔法を展開して同時に切り掛かるが、飛翔しつつ避けられ剣の一振りで戦闘不能にされた。


「あれ『飛行』じゃない! 上級魔法をなんであいつが! と言うか訓練鎧なんかで上級魔法を展開できるの?」


「出力のでかい攻撃魔法は無理だが、出力自体は中級魔法と同じ程度の『飛行』なら不可能ではない。まあそれでも想定されていないことだからいくらか効力が落ちるはずだが」


 ルリアが驚愕した声を上げると実家が鎧の製造をしているだけあって鎧に明るいヒビキがにわかに信じられないと言った様子で解説する。


「じゃあ今まで本当に手を抜いてたの? なんのために?」


 エーデが疑問を抱くとスランは勝利宣言をされたにもかかわらず、どんどんと天に昇っていく。

 豆粒ほどの大きさに見えるようになると大爆発した。


「ありゃりゃ整備不良で爆発しちゃったみたいだね。途中で気づいて周り巻き込まないようにしてくれたみたいだけど」


 あまりの事態に一体どうなってるのとエーデが困惑すると肝の据わったロロナが状況を冷静に分析する。


「あのスラン君がそんな……」


 エーデは否定をしそうになったが、思えば今日一日スランの様子がおかしかったことを思い出した。

 いつもは欲が滲み出た顔をしているのに綺麗な顔をしていたし、イクスに疑いを持たれた時にも逆ギレせずす粛々と聞いていた。

 しかも極め付けには先ほどまで手加減してイクスに追い詰められていた。

 まるでこれまでの贖罪をするように。

 そこまで行くとロロナの言葉を否定できなかった。

 おそらく彼は改心したのだろう。

 改心したからこそ自分の身を犠牲にしてこの場にいる全員を守ったのだろう。


「スラン君……」


 まるで報われない終わり方をする不良の改心物語を見せられた気分になり、エーデたちの心は熱くなった。


 ヒロインたちの好感度が上がった。



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