第12話 決闘する豚野郎
決闘など本来なら受けるわけもないが、イクスの出す勝った時の要求は「自分含めた周りの者、そしてメイベル・サーべライ(モブ娘)に近づかないこと」ということでデメリットゼロなので受けることにした。
ブチギレ具合的にここで適当にやられておいた方が後々禍根もなさそうだからな。
一つ問題としてあるのは、俺からしてイクスに対して特に要求することもないことだが、どうせ負けて履行させることもないことだし、適当でいいか。
昨日シアから言われた要求でもまんま書いておこう。
「こちらの要求は確認しなくていいのか?」
「スラン、そんなものは見ずともわかりきっている。そんなことよりもお前に早く引導を渡すことの方が先決だ」
契約が始まる直前になり、こちらの要求が書いてある契約書を確認しないので、老婆心から確認するように促すとイクスにノーセンキューされた。
第三者(シア)の奴隷になるという結構ショッキングな内容なのであれだったら変えようとかとも思っていたが、負け前提で勝つことはないし、余計な気遣いか。
「では契約を始めます」
こちらの会話が区切れるともう心残りはないと判断したようで契約の儀を行う神官が祈りを捧げると契約書が燃え上がり、契約が為された。
「契約は完了となります。ではご両者ともご武運を。すでに闘技場にて鎧が待機しております」
割とあっけないな。
ゲームでは契約に逆らえないとか言ってエロいことをさせられていたが、こんなのにそんな強制力があるのが疑問に思えてくるな。
まあこれが終わった後に身をもってわかるか。
神官に促された通りに鎧が用意してある闘技場に向かう。
先ほどイクスがブチ切れて決闘をするためにここに来たため、授業中ということもありギャラリーは来ないだろうと思っていたが、会場には観覧席を埋めつくように大勢の人間がいた。
どうやら授業をサボってこちらを見に来たようだ。
「おお、きたぞ」「救世主に俺はかける」「ダークホースで豚野郎」「授業よりやっぱりこっちの方がいいわ」「豚野郎に正義の鉄槌を!」「スラン様、応援してます!」「ご主人様、どうか無事で」
賭け事やヤジに興じており、非常に楽しそうである。
是非ともそっち側に行きたいですね。
盛り上がる学生たちを尻目に決闘用に学校から用意された訓練用の鎧に乗っていく。
ゲームのチュートリアルで操縦した以来だな。
あまり魔法増幅機構が良くないので、中級魔法以上は使えないが、範囲殲滅の必要のない決闘でやるだけなら十分だろう。
『準備はできたか、スラン』
「ああ、いつでも来るといい」
こちらの準備が整い、イクスが確認に是と答えると戦いの火蓋が切られた。
『いくぞ!』
中級火魔法『五灯籠』──五つの大火球を繰り出すとこちらに向けてイクスが剣を振るってくるので大火球を避けつつ剣で受ける。
救世主の力で魔法の規模と威力が増幅しているが、まだ慣れていないようで狙いが甘く簡単に避けられる。
魔法で事故って死ぬことはなさそうだ。
競り合いをしてから受け流して剣を振るうと盾でガードしてイクスが距離をとった。
このまま剣で斬り合いをして、腕のどっちかを切らせて頭をつぶさせれば、戦闘不能ということで戦いの体裁を保ったまま終わらせるができるだろう。
しばらく剣戟を繰り返し、押し返してわざと隙を作ると、左腕に向けて初級風魔法『風刃』が放たれ、そのまま受ける。
狙い通り、腕を潰せたのであとは頭をやらせればOKだ。
そう思っていると被弾した衝撃のせいか足元に何か落ちてきた。
「なんだこれ?」
チラリと目をやると、時限爆弾だった。
いやなんでやねんと思いよく見てみると。
やはり時限爆弾で、結構もうカウントがギリギリだ。
しかも念のためかもう一つ足元に付けられている。
オーバーキル過ぎますね。
このままでは豚野郎の丸焼きになってしまう。
命の危機だ。
決闘とかなんとか言っている場合じゃない。
とりあえずテロリストと間違われないように鎧を時限爆弾ごと生徒を巻き込まない場所で爆発させなければいけない。
『うお、こいついきなり動きが!? ふざけるな!』
「邪魔だ。どけ」
『グアああああああ!』
「イクス・キャリバー戦闘不能! スラン・デストンの勝利!」
『飛行』で飛んで生徒たちから距離を取ろうと思うと得意技なのか、まだ『五灯籠』を繰り出してきてこちらの進路を妨げるように接近してきたので、魔法と剣を避けつつ剣でイクスの鎧の首を刈り取ってそれ以上邪魔されないように無力化して、上空に高度を上げていく。
闘技場が小さくなるレベルに感じるところまで昇るとカウントが二桁を切り始めたので念の為に体の周りに『障壁』を展開するとハッチを開けて緊急脱出する。
空中に出るとともに自分の体に向けて『飛行』を使って急下降すると背後で派手な爆発音が聞こえ、爆風に後押しされて地面に向けて落ちていく。
地面にめり込むかと思ったが『障壁』によって弾かれ、何度か転がるだけで済んだ。
酷い目にあったな。
それにしても俺にとって一番大事な命を奪おうとした爆弾を仕込んだ奴どうしてやろうか。
絶対に許しません。
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