第10話 真の王じゃないから



『真の王とは。優しさから人々に関心を持ち、人々の穢れを知っても包み込めるような強さを兼ね備えたものだ』


 亡き先王──シアの祖父の言葉だった。

 現王である父の行動はその言葉とは真逆と言っても過言ではなかった。

 現王であるシアの父は王位を教会の力を使って一領地ごと他の兄弟を亡きものにして継承し、国の武力の要である精霊鎧を教会に明け渡し、継承権一位の第一王子を教会に出向かせている。

 利己心に溺れ、自分可愛さに強いものに媚びへつらう、どう見ても教会の回し者の売国奴の行動である。

 それだというのに教会の発表した預言通りにことを進めているため、批判の声さえ上がらないどころか、敬虔たる信徒としての務めを果たすために尽力する偉大な王と讃えられていた。

 さらにこの頃になっては現王であるシアの父は賞賛に酔ったのか、魔族との争いが終わったあと、教会に王国を献上しようと言い始めた。

 賞賛をされたいという自らの欲のため、自らのみが報われたいがために全てを犠牲にしようしていた。

 他の者を慮る優しさも、自分一人を支える程の強さもなかった王の末路だった。

 真の王とは逆を行くものがどういうものなのかとまざまざと見せられているようだった。

 それでも民が幸せであるというのならそれでよかったが、自分たちの利益のために一つの領地を滅ぼす教会が王に成り代わった世界で民が安寧を得られるとはとても思えなかった。

 もはや何者かが真の王になり国を立て直すしかないようにシアには思えてならなかった。

 預言を信望することによって危機感などなくなったこの王国に置いて誰かが。

 真の王たる資格を満たした誰かが。

 シアの考えうる中でその条件を満たすのは、真の王に必要とされるものを知り、王族として強大な力を持つシア自身しか存在しなかった。


「息子はお眼鏡に適いましたかな。陛下」


「適いましたよ。彼はこの国の民でありながら、教会を否定してくれました。同じ景色を見ている者を否定することはありません」


「その割には酷く厄介な命令をお出しになりましたな」


「不服ですか。危険ですが、救世主たちを確保するためにはああするしかないのです。彼らは教会の息のかかった最先鋒で説得は見込めない上、実力を伴っていない今しか倒して身柄を拘束することはできないのですから」


「育ち切ってないとはいえ、神の生まれ変わりと目される者たち。一撃で領地一つを沈めるものたちです。たとえ極大魔法が使えるとしても荷が勝ちすぎていますな」


「今日はよく刺しますね。子が心配なのはわかりますが」


「主のあなた様が危険を顧みずに立ち上がっているのにそのようなことはありません。ただもう少し機を窺い状況を見定めてよろしいのではないかと申し上げたいのです」


 先王の祖父を慕い自分に忠を尽くしてくれているリックが珍しく反対し始めたことはわからないことではない。

 自分に協力を始めた時から息子の英才教育をやめ、できるだけ危険のある場所から子を離すようにしていた。

 だからこそ子を大切に思っているのは言わなくともよくわかっていた。

 だが現実的に一番目がある方法だということもそうだが、どうにも絶望的な状況から村を救った一件が優しさと強さを兼ね備えた真の王のあり方をなぞっているようで期待を持たざるを得なかった。

 内心でできてしまって欲しいと思ってしまっていた。


「これ以上様子見をしたところでもはや意味はありません。早急に手を打たねばならないのです。全てが終わった先にはあなたの家族が安らかに生きられる世界を作ることを約束します。ですので今は力を貸してください」


「元より私の全ては陛下のためにあります。陛下の覚悟があるのでしたら全てを差し出します」


 再び言葉を募ると、もう避けられないことと覚悟を決めたようで目を閉じてそう返事をした。




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