第7話 乱暴現場監督豚野郎



 俺はもう死にかけたし、これは帰るだろと勝手に思っていたが、普通に初級ダンジョンに馬車で運ばれた。

 そりゃ言ってなきゃそうなるか。


「侯爵様、申し訳ありません!」


「謝るな。元よりここに行く予定だ」


 着いて俺が一瞬ポカンとしたことで察したのか、平謝りしてくる。

 まあせっかくだし、初級ダンジョンに入った方がいいだろう。

 太り過ぎでデメリットバフかかりまくりで、ダイエットする必要もあるし。

 意外にこういう時に動くことが小さな積み重ねになったりするものだ。


 中に入ってみるとあまり旨味の少ない初心者専用ダンジョンということもあってか、人の姿は見えない。

 この国の国教のスコア教が休日に働くのを禁じるとかやってることもあるから大半数は家でゴロゴロしてるってところか。


「いやあああ!」


 モンスターがいないなと思いつつ魔法を使うのにちょうど良い大広間に向かっていくと女の子の悲鳴が聞こえた。

 何なんですか、こんなところで思っていると男たちに囲まれて壁際に追い込まれている女の子がいた。

 女の子も大変だなと思っているとその一団の来ている服がスランの通う騎士学園の制服だと気づいた。

 まずいですねこれは。

 女の子が乱暴される現場にいる豚野郎。

 客観的に見たら間違いなく加害者側のリーダーですね。

 100%学園の皆におのれ豚野郎となる展開です。

 若人たちが熱き血潮を激らせることはどうでもいいですが、俺が酷い目に遭う可能性が上がるのは勘弁ですよ。


「貴様ら何をやっている?」


「なんだてめえ?」


 一声掛ければ豚野郎の家柄にビビり散らかすと思ったが、こちらのことを知らんようで凄んでくる。


「私はデストン侯爵家の嫡男スラン・デストンだ」


「へえ、お前がねえ。でデストンの豚様が俺たちに何のようだってんだよ?」


 お、こいつは珍しい。

 豚野郎の名前を聞いてもヘイコラせずに凄むとは。

 正常な貴族ならお機嫌伺いして距離をとるのがふつうだと思うが。


「このダンジョンは俺が貸切にする。盛るのなら他の場所でしろ」


「俺に指図してんじゃねえ! 権力だけの豚野郎がよお! ここにてめえの言うことを聞くヤツは居ねえんだよ! 全くいいとこで邪魔しやがって! やっちまえ!」


 俺と話していたリーダー格ぽい生徒が号令を出すと取り巻きのの生徒たちが飛び出してくる。


「やるよりも薬漬けにして金庫になってもらったほうがいいだろ」


「流石に身分が身分だしバレんだろ。ここで殺してチョロまかすくらいがいい」


「ああどうでもいいだろ。人殺せりゃ十分だよ」


 手慣れているようで足元を土魔法で埋めると注射器を持った生徒とナイフを持った生徒が同時にくる。

 並のモブ生徒であれば行けたかもしれないが、スランはなんだかんだで終盤まで主人公たちと張り合う噛ませだ。

 残念ながらモブがどれだけ工夫しようと覆せない格の差がある。

 中級風魔法『風衝撃』を使い、近づいた二人と後ろで魔法を使う生徒を風で衝撃波で吹き飛ばす。


「「「ぎゃあああああああ!」」」


 悲鳴をあげて壁や床に叩きつけられると延びたようで取り巻きたちは沈黙する。

 モブとは違うのだよモブとは。


「クソが! 中級魔法!? 学園卒業レベルかよ! 権力だけじゃねえのかよ!」


 リーダー格の生徒は先ほどの強気な態度から一転、悲鳴をあげて逃げ始めた。

 追いかけるのもめんどくさい。

 ほっとこうかと思うと柱が出っ張ているせいで見にくいが逃げた先の横壁の溝から鎧の一部が見えた。

 これはダメですね。

 乗る前に始末しないとミンチにされます。

 中級風魔法『鎌鼬』で横に長い風の刃をリーダー格の生徒に放つ。

 空気抵抗か、なんなのか知らないが結構アクロバットな軌道で動くな。


「ぎゃあああ! 俺の腕がああああ!」


 当たりやすい胴体を狙ったつもりだったが、狙ういが逸れてリーダー格の生徒の左手を吹っ飛ばしてしまった。

 左手が血の噴水みたいになっちゃったな。


「ヒィぃぃぃ! 殺される!」


 失血死確定なのでもうなんもせんだろと思っていると何を血迷ったのか大量出血しながら、鎧のコクピットに乗った。

 何乗ってんねん。

 乗ってもすぐ死ぬのに。


『俺に近づくなあ!』


 こちらに向けて対鎧用に増幅された風魔法を発動し、風の刃を放ってきた。

 先ほど飛ばしたばかりだから弾道は学習済みなので当たりません。


『来るなあ!』


 上級風魔法の『飛行』を使って避けると全魔力ブッパでもしたのかやたらデカい大きな風の刃を放ってきたのでこれも避ける。

 デカいだけで見切れている今なんの脅威にもならない。


『クソ!』


 近づいていないのに来るな近付くなと言ってパニック二連撃を繰り出すと魔力切れしたようで魔法が止まる。

 飛び道具を使えないし、腕一本じゃ碌な操縦なんてできないしな。

 完全に詰みだ。

 あとはただ血が抜けて死ぬのを待てばいい。

 て言うかよく考えたらチンピラでも生徒ブッコロは不味いか。

 一月で悪逆非道のかぎりをつくした豚野郎がついに人殺しにまで手をつけたと思われかねないような気がする。

 推定有罪の原則はこの世界でも同じだからな。

 一月くらい大人しくできんのかったのかね全く豚野郎は。


「そのままそこに居ても死ぬだけだ。ハッチを開けて出てこい。そうすれば腕をくっつけてやる」


「ふざけんじゃねえ! 出てったら殺されるのに出てくわけねえだろ。このままここで死ぬ方がマシだ」


 もうビビり散らかして説得どころではないな。

 こいつは俺のことをシリアルキラーか何かだと思っているのか。

 もうハッチから引き摺り出す方が早いな。

 普通なら自殺行為だが、死にかけのモブ相手ならいけんこともないだろ。


『ううわああああ!』


 コクピットのハッチに向けて飛んでいく。

 腕をめちゃくちゃに動かすがろくに狙ってないので簡単に抜くことができた。

 そのまま装甲に覆われていないハッチと鎧の接続部に中級土魔法「回転鉄」──鋼鉄で構成された刃だけのチェーンソーを挟み込んで接続部を破壊するとハッチが剥がれた。


「出ろ」


「ヒィィィぃ!! グア!」


 中にいたリーダー格の生徒を『飛行』で外に放ると頭を打ち付けて気絶した。

 早く腕をくっつけないと血が抜け過ぎて死にそうなので、中級光魔法『大回復』を発動してくっつける。


「手間のかかるゴミだ」


 まあ色々と魔法も使って実践環境で調子を確かめられたからよしとするか。


「あのスラン様。助けてていただいてありがとうございます!」


 さて戻るかと思うと先ほど壁に追い詰められていたモブ女生徒が声をかけてきた。


「まだここにいたのか」


「すいません腰が抜けて動けなくて」


 俺が疑問を口にするとそう答えた。

 腰が抜けてたのか。

 まあヤバい目に合いそうになった後に至近距離でそれ見おうと思わんか。


 この娘をそのままにしておくわけにはまずいか。

 このままほっといても起き上がったチンピラにやられそうだしな。

 それを俺のせいにされてもたまらんし。


「仕方あるまい。馬車で寮まで送ってやろう」


「あ、あリがとうございます! スラン様!」


   ────


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