第6話 メイドの好感度が上がりました
「ブヒヒヒ! 一ヶ月仲を深め、もうそろそろいい頃合いよな」
「え?」
時は遡り昨夜。
スランの要求でシルヴィアはマッサージをしていると突然腕を掴まれ組み敷かれた。
「伽をしろシルヴィア!」
「おやめ下さい!」
「ブホォ!!」
いきなりのことで気が動転したシルヴィアは側にあった花瓶で思いきりスランの頭を殴打してしまった。
側頭部から血を流しピクリと動かなくなったスランに血のついた花瓶。
それを見て血の気が引くとともにシルヴィアは正気に戻った。
「ああなんてことを」
使用人の主人殺しは極刑だ。
もしもの時のためにと持たされていた高級ポーションをスランの頭に振りかけ、花瓶の血を拭く。
幸いなことに即死はしてなかったようで傷が塞がり、傷自体なくなる。
犯行の証拠は全て隠滅したが、翌朝起きたスランにどう言い訳したものか?
頭を悩ませるが妙案は出ない。
状況をよく思い出してみるとスランはこちらを凝視しており、花瓶で殴打される瞬間を見ていない。
シルヴィアは誤魔化す方向でいこうと思い、翌朝スランの元に行くと憑き物が落ちたような顔をして自分に敬語を使う綺麗なスランがいた。
欲に塗れたような顔がデフォルトだというのに、それが消失したような邪気のない顔に内心で驚愕する。
頭を叩かれたことで悪人が善人になるという御伽話があるがまさか現実で起こっているとでもいうのか。
半信半疑で綺麗なスランの様子を見ていると、馭者風情に礼を言い、果てには碌な武器もないと言うのに義憤に駆られ単身で鎧に襲撃されている村に乗り込んだ。
もはやここまで行けば御伽話が現実になったことと信じるほかなかった。
だからこそシルヴィアは綺麗なスランが教会に連れていかれそうになったとき本気で焦った。
教会などに連れて行かれて光魔法の治療でも受ければ、この善人化異常の生じたスランが元通りに戻ってしまう可能性があるからだ。
このまま綺麗なスランでいることがシルヴィアにとっては理想的な状態だと言うのにそんなことをされては困る。
だから必死に連れていかれそうになる綺麗なスランをその場に止めた。
そのあとスランに対して「自分の望みはそのままのスランであればいい」と言ったのもおべっかではなく心からの本心だった。
──
スラン豚野郎回帰の危機から脱し、馬車の中でシルヴィアが胸を撫で下ろしていると窓から差し込んでくる日差しに綺麗なスランが目を細め口を開いた。
「そろそろ昼か。せっかくだし近くの飯屋で飯を食ってくか」
「侯爵様、ここらでは金色の豚亭がおすすめです」
「じゃあそこに行くか。ついでだしお前も食っていけ。奢ってやるから。さっき食べたパン一つでは足りんだろ」
綺麗なスランの要望に馭者がおすすめの飯所を提案すると、そこに行くことに決まった。
「私が持つから好きなだけ食え」
いつもならば外で食事を摂る時メイドには食べる許可を出さなかったが、今回は許可を出すだけではなくいくらでも食べていいと綺麗なスランは言った。
シルヴィアには父親はいないが、危機の時に頼りになり、どんなものにも分け隔てなく優しくする綺麗なスランの姿にシルヴィアは父のような包容力のようなものを感じて、今まで使用人として物のように扱われ、冷えきているはずの心の芯が温かくなるのを感じた。
シルヴィアの好感度が上がった。
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