第3話 今こそ王国貴族の誇りを示す時!
「ハアハア、シルヴィア馬車まで何キロだ?」
「100メートルほどです」
この体を動かしてわかったことがある。
めちゃくちゃ体力がない上、脂肪が邪魔して動きにくい。
常時デバフが入っているようなものだ。
肉体の全盛期だというのに元の世界の俺の体(おじさん)より体の調子が悪いのはまずいですよ。
もしかしてこのゲームで豚野郎だけグフフなシーンがなかったのは体力的な面で厳しいとか言う世知辛い理由からか。
見た目モロリアルオークなのにおかしいと思ったんですよ。
ダイエットしないと確実に早死にしますねこれ。
いかん、ダイエットどころか馬車にたどり着く前にあの世に行きかねん。
確か上級魔法に動きをブーストする奴があった気がする。
もはやそれを使う以外に俺に残された道はない。
よし、イケ、上級重力魔法『兎歩』。
キタキタめちゃくちゃ体が軽い。
羽根になったと言っても過言ではない。
実際に修練して無くても覚えてればこっちでも使えるんだな。
「ああ、こちらです。どうぞどうぞ、侯爵様」
牛歩ならぬ豚歩の先ほどとは打って変わってスイスイで目的の通りまで行くと馭者だろうオッサンがヘイコラしながらこちらをエスコートしてくれる。
どうやら脂汗を流しているところを見るに馭者まで俺の悪評は広まっているようだ。
一月でやることやってますねえスラン君。
「ご苦労」
「侯爵様から私どものようなものに労いのお言葉を頂けるとは恐悦至極にございます」
感謝の言葉を言って気安くしたつもりだが、さらに萎縮する。
当たり前と言えば当たり前だが行動を伴ってなければ、積み上がった負債は消えなさそうだ。
「では出発します。揺れますのでお気をつけて下さい」
物憂いなと思っていると馬車が出発し始めた。
「シルヴィア狭くないか?」
「いえ、大丈夫です」
図体のでかい俺が座席の結構なスペースを占領してしまっているので、シルヴィアに尋ねると不思議そうな顔で俺を見る。
モラハラ上司がいきなり優しくなったら怖くてたまらんか。
いかんな、不審を呼ぶとわかてっても、底辺社畜としてヘイコラするのが癖になっているせいでヘイコラしてしまう。
なるべく控えないとな。
シルヴィアの精神衛生上、一番いいのは俺と行動を共にないことだが、この娘はスランの実家──デストン家からスランの監視を帯びているので下手に離すとどうなるか分からないからそれもできない。
職務放棄は絶対許しませんとかだったら実家に感知された瞬間に始末されそうな気がするしな。
なんかわかるまで一緒に居た方がいいだろう。
お試しでサブヒロインに死なれても敵わんからな。
グウウ。
立ち振る舞いについて内心で云々していると腹の鳴る音が聞こえた。
即座に俺を見るシルヴィア。
冤罪ですよ。
君は太ったことがないから知らんかもしれんがデブは基本的に腹が減る前に食ってるから腹が鳴る確率は普通の人と比べて極めて低いんですよ。
いやマジで。
「も、申し訳ありません。今日は朝から食ってないもので」
沈黙に包まれる馬車の幌の中、犯人こと腹の音の主、馭者おじさんが自白した。
「別に構わん。だが万全じゃない状態で運ばれても気が休まらん。食うものを食ってから運んでくれ」
「ご寛大な心に感謝します。侯爵様を待たせるなど滅相もありませんので食いながら運ばせて頂きます」
そういうと馭者おじさんは近くの袋からパンを取り出すと齧り始めた。
俺の内なるスランもしくは食欲が刺激されたのか、俺の意思に反して馭者おじさんのパンに手が向かう。
鎮まれ! 俺の中の
流石に食べていいよからのお前のものは俺のものはジャイアンでもドン引きだ。
なるべく馭者の方を見んようにするか。
目を逸らして窓から外に目を向けると寂れた村に人だかりができているのが見えた。
中心を見ると聖女ことメインヒロインのローゼリンデがいるのを確認できた。
どうやら休日まで慈善活動をしに来ていたようだ。
本編でもないところでもお仕事とは聖女も大変だな。
まあ俺が感知してないだけで本編と関わりがあるかもしれないが。
それというのも『ティンクルフィーバー』は予算の問題なのか、そういうこだわりからか知らんが、アイテムの説明文に断片的に本編では伏せられているエピソードの情報が書かれているのだ。
だから複数のアイテムの説明文を閲覧しなければ知ることのできない本編関連の潜在ストーリーが存在する。
ストーリー厨には垂涎かもしれないが、俺は主にこのゲームのエロい部分にしか興味がなかったので無論確認していない。
まあどうせローゼリンデの頑張ってるエピソードの補填くらいか何かだろう。
「うん?」
そう思いながらぼんやり眺めていると上空から突如この世界で鎧と言われる巨大人型ロボットが四体飛来してきた。
近くに居た聖騎士たちが慌てて聖女を馬に乗せて逃げるところを見るとあれは曲者らしい。
大変なことになったもんだ。
「聖女様こちらへ!」
他人事のようにそう思っていると聖女を連れた聖騎士たちは鎧を確保して反撃に転じるためか、鎧を多数保有している騎士学園に向けて進路を向け始めた。
当たり前だが俺らは学園からこちらに来ているので聖騎士たちとかち会うことになる。
まずいですね、これは。
この世界の貴族は強権を持つ代わりに民の危機が訪れれば必ず守らなければいけないという義務を負っている。
無論俺も例外ではなく、絶賛鎧に村がファイアーされてるこの状況で見て見ぬ振りをしていることがバレればやばいことになる。
王様からは苦言、スランパパからは死をもらうことは想像に難くない。
転生すぐブッコロは勘弁ですよ。
教会はデストン家とは仲悪いから伝家の宝刀マネーパワーで口封じもできないし。
もうこれ詰んだな。
もはや村に向けて俺は村を助けるぞとか言って突撃して、すぐ離脱するしかない。
残機0で弾幕ゲーをするハメになるとはおのれ教会。
いや待てよ、一発バレなければワンチャン。
うーん。
体がデカすぎて隠れようとするとシルヴィアを押しつぶすことになるので無理ですね。
「あ、あなたはスラン様!?」
はい、案の定バレました。
豚野郎、逝きまあああす!
馬車の扉を開けて外に出る。
「なんということだ! 民たちが傷ついている! 今こそは王国貴族としての誇りを示す時! 行くぞおおおお!」
「ご、ご主人様!?」
聖騎士たちを尻目に上級風魔法『飛行』を使って、フルスロットで村に突貫していく。
当たり前だが飛ぶ豚野郎を見た鎧たちはすぐ目をつけて魔法の一斉掃射してくる。
まずいですよ。これは。
逃げ切る前に蜂の巣になります。
近くにある窪地に逃げ込む。
隠れて当たるはずがないというのに、威嚇射撃なのか頭上を鎧の魔力増幅機構で強化された対鎧用攻性魔法が通り過ぎていく。
殺意高。
一度見つけたら即ロックオンするなこいつら。
生身の人間なんか鎧の相手になるわけがないのでほっといけばいいというのに。
巨大ロボットを生身で相手できるのは東方不敗だけだということを知らないのか。
飛び出したら高確率で死ぬし、待ってても近づいてやられるだけだしな。
クソゲすぎる。
あるわけはないと思うがなんかないか。
周りを見回してみると、よく見ると泥に塗れて景色と同化している仰向けの耕作用鎧があるのが見えた。
物理と衝撃には滅法強いが魔法に滅法弱い対鎧用魔法使用不可のネタ鎧だ。
こんなもんPVPでやったら戦いにもならないが、相手は野生のモブ。
こいつで戦った方がまだ生還の目があるか。
耕作用鎧のハッチを開くと飛び乗る。
起動させると問題なく動いた。
流石に魔石──バッテリー切れということはなかったらしい。
「それでもやっぱり万全とはいかないか。二分の一切ってるな。現役で酷使されてるし、しょうがない」
ハッチを閉じて、転がってうつ伏せの状態になると魔法の弾幕から少しズレた位置まで匍匐前進で移動する。
「よし、悪質タックル行くぞ」
耕作鎧のパワーセーフティを解除すると、Gで死ぬのを避けるために中級光魔法『障壁』を掛けて突進とともにキックを相手の鎧のハッチに向けて放つ。
操縦している中のパイロットがGで死ぬレベルの挙動で動いているので碌に反応もできずに相手の鎧はキックをモロにくらいコックピットを凹ませて倒れると、キックの反動を利用して近くにいるもう一体の鎧のハッチに向けて拳を叩き込む。
ゲームではこれで即死だったのでこれで即死になってくれればいいが。
まあ悪くても気絶くらいにはなってくれているだろう。
次行くか。
『ジェットおおおおお! コザーアアアル! 一瞬で大破した!? 一体何が──ぐああああああ!!』
再度悪質タックルを放ってキックでハッチを凹ませて壊すと最後の一体に反動そのままに拳を繰り出す。
『舐めるな!』
流石に二回見せたこともあり、バレたか。
魔法を直撃コースで放ってきたので、勢いを殺すことになるが屈んで回避行動を取る。
「距離が近すぎたな。頭に被弾した」
魔法の着弾した衝撃で勢いを殺され、碌に周りが見えんので相手の鎧に抱きついて拘束する。
『往生際が悪いぞ! 時間稼ぎのつもりか! 人族風情が!』
「時間稼ぎのつもりなど毛頭ない」
自爆ボタンを押すと排出機構が作動し、鎧から強制脱出させられると爆風で吹き飛ばされる。
『ああああああああ!!』
爆発と破砕音、敵の絶叫をバックに地面を転がる。
とりあえず村に来てた鎧についてはこれで全部やれたな。
「死ぬかと思った……。障壁がなかったら死んでただろこれ」
仰向けの状態から身を起こすと空の一点に一隻の戦艦が浮かんでいるのが見えた。
マジか。
あいつもか。
戦艦からファイアされたら村ごと吹き飛ばされるんですが。
今先やっちゃたけどまだ動く鎧はないかな。
一体目と三体目は完全にコクピットが潰れているが、二体目の奴はハッチが吹っ飛んで中の人がミンチになってるだけで済んでるのが見えた。
グロいな。
とりま、この人どけて動くか試すか。
ミンチを『飛行』で飛ばして、コクピットに乗ると動いた。
ちょっとモニターにノイズが走ってるが、長期運転するわけじゃないし大丈夫だろう。
戦艦を落とすには膨大な魔力が必要なゆえに王族のみが使用できる最上級魔法の極大魔法が必要なのだが、一応王族で条件を満たしているが碌に鍛えていないスランだと二発欲しいところ一発が限界だ。
距離離れていると威力落ちるから、近距離の極大魔法で攻めるしかないな。
隙を見せたら弾幕に撃ち抜かれてバイバイなので、隙がない奴で行かなければいけない。
「南無三」
鎧の手持ちの武器の剣の切先を宙に浮かぶ戦艦に向けると、極大魔法『天魔失墜』を発動する。
周りに金色のオーラを生じさせると戦艦に向けて超加速して突進していく。
ちょうど真下から突進していったのでバレなかったのか、戦艦から反抗を受けることなく貫くと大爆発が起きた。
「終わった。ついに終わった……。一般おっさんには身が重いわ。もう勘弁ですよ」
全てが終わったことを悟ると馬車に向けて降りていく。
───
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