第2話 基本スペックにおいて最強
よりにもよって転生したのが豚野郎。
ソシャゲによってガチャする時は大体ハズレが出るという厳しい現実を叩き込まれてなかったらこの事実に打ちひしがれていたことだろう。
まあ豚野郎──スランは役回りこそ最底辺だが、家柄は王族公爵に次いで権力を持つ侯爵な上にこの世界でトップの魔力量を誇る王族の親族ということもあり、魔力量もトップクラスで基本スペックは高い。
救世主であり、現人神である主人公と比べれば、総合力は低くはあるが、全体として言えばtier1くらいには入るのでスペックでいえばハズレの中でも当たりの部類と言ってもいい。
主人公とラスボスを除いてほぼ最強のスペックだというのに、何故かませに甘んじたかというと一才努力をせず、遊び呆けて授業にもほぼ参加しなかっためだ。
それのおかげで幼い頃は神童と言われもてはやされたというのに、才能の片鱗だけを見せるだけ見せて、覚醒せずに主人公にボコボコにやられる。
ゲームで中級魔法しか使えないはずだったのに上級魔法を一回使ってきて焦ったら、それ以降は使ってこずに普通に倒された時はマジでなんだなんだこいつと思った。
そういう豚野郎に関する設定を知った今から思返せばあの時に、才能だけで一つ上の位階の魔法を即興で開発してしまったのだろう。
これだけ才能に恵まれながら一切努力しない豚野郎はなんなんだ、ほんと。
まったく周りから幼い頃から神童としてチヤホヤされて、周りの取り巻き貴族からヘイコラされて全肯定されて、主人公たちが魔王をどうにかするので戦いの技術を学ぶ必要性がない上に並の貴族が使える魔法を何もせずとも使えたとはいえ、どうして努力しないのか。
いや冷静に環境見てみると割とこの状況で、努力するとかきついな。
努力をする必要性を一切感じん。
すまんな、豚野郎。
まあ俺は豚野郎がヘイトを買っているのを知っているので、もしもの時のために努力はさせてもらう。
手始めに難易度が一番下のダンジョンで調子を確かめるか。
今日ちょうど騎士学校休みだし。
絶対にやらなければならないヘイト解除については学校に行ってからでいいだろう。
こんな寮の一室からできることもイベントもないし。
「朝食にございます」
これからの方針を決めると、そう言ってシルヴィアが朝食を運んできた。
今日の俺の朝食は揚げ物の盛り合わせ大皿5枚だ。
殺す気か。
これもう既にヘイト溜まりすぎて、食い物で殺そうとしてきてるだろ。
確か入学の時にあてがわれたメイドなので、逆算すると1ヶ月でこうまでもヘイトを貯めたのか。
侮れぬ男よ。
「いや、流石に油物多くないですか? なんか怒ってたりします?」
「いえ、そんなことは……。ご主人様の注文通り揚げ物の盛り合わせ五皿のはずですが」
真意を確かめるためにシルヴィアに尋ねると、まさかのスランが下手人だと判明した。
どんだけ油物好きやねん。
好きなものにしてはよくもまあこんなに見るだけで死ぬかもしれんと思う量を食うな。
これもう才能と言ってもいいレベルだろ。
「すみません。本当に申し訳ない。そういえば俺でした。次から朝食はパンと牛乳でお願いしてもいいですか?」
「ご主人様が謝って!? はい、次からと言わず今からでもパンと牛乳でお出しします!」
「え。本当ですか。ありとうございます」
よほど豚野郎が謝る姿が新鮮だったのか、動揺しつつもパンと牛乳を取りに行く。
スラン、謝ってなかったのかお前。
いやいくら何でも謝らんのはダメだろ。
謝るようなことをしでかしてる時点でヘイトがやばいのに、謝らんとなると目も当てられんよ。
「お待たせしました!」
「いやいや、こっちのせいなのでそんなこと全然気にしなくていいですよ」
おほお。
朝食といえばやっぱりトーストと牛乳よ。
バリバリムシャムシャゴクゴク!
うまい。
うまい。
「あのご主人様は今日はどうされたのでしょうか? 私のようなものに敬語使い、お気遣いをしてくださるとは。何かあるのでしょうか?」
朝食を貪っていると恐る恐ると言った感じで、シルヴィアがそう尋ねてくる。
俺としては特に何も気負わずにそのまま喋っているだけだったが気負わせてしまったらしい。
シルヴィア側からしたら、いきなり上司が下手に出始めたものか。
めちゃくちゃ胡散臭いな。
クソみたいな仕事を頼む前触れにしか見えない。
尊大な口調なので好きじゃないが、豚野郎の口調を真似るか。
「気まぐれで話し方を変えたくなっただけだ。気にしなくていい」
「そ、そうなのですか。くだらないことを尋ねて申し訳ありません」
「気にしなくていいと言っているだろ。それよりも今日は初級ダンジョンに行きたいから馬車を手配してもらっていいか?」
「承知しました。ご主人様」
俺の真似はどうやら及第点を頂けたようで特に突っ込まれずに了承を得ることができた。
さてとりま飯食ったら初級ダンジョンに行くか。
───
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