第136話 三つ子の魂百まで



 一体何に驚いているというのか自分でも分からないのだが、とりあえず今この場で言い訳をしなければならないと反射的に思ってしまったではないか。


 まるで浮気がバレた夫の気分を疑似体験しているような気分である。


『ロベルト様、ここでオリヴィア様に冷たく当たって嫌われれば、上手くいけば婚約破棄にまで持って行けたチャンスなのではないでしょうか?』


 その時、俺の雑務係としてついて来ていた側仕えメイドのマリエルが、近づいて来たかと思うと、そんな事をオリヴィアに聞こえないように耳打ちしてくるではないか。


 できればもう少しだけ早くそれを教えて欲しかった。さすれば俺はオリヴィアを突き放す事ができたのかもしれなかったというのに。


 やはり三つ子の魂百までと良く言ったものである。

 

 前世であれほど周囲から裏切られ、今世こそは他人に情けをかけずカッコいい悪役として生きていくと心に誓ったとしても、要所要所や、こういったとっさの判断が必要な時に良く言えば人の良さ、悪く言えば事なかれ主義な性格が表に出てきているのをどうにかしなければな……。


『…………そうだな』

『気付いてらっしゃらなかったのですか?』

『…………いや、そんな事はないが今思えばその選択肢を取った方がオリヴィアからすれば幸せな未来だったのかもと少しだけ思っただけだ』

『…………そうですか』


 しかしながら、気付いていなかった事をマリエルに気付かれては、カッコいい悪役としてはやはりダメであろう。


 かっこカッコいい悪役とは、スマート且つ無駄のない一手を指すものである。


 故に無駄な一手、なんならマイナスの一手を指したという事を絶対にバレてはいけないのだ。


 その為、ここは気づいていなかった事を悟られず、しかしながら多くを語らずに流す事に徹するのがベストな対応であろう。


 一番ダメな事はここで焦ってベラベラと言い訳を話す事である。


 嘘を吐く為に言い訳をする、または嘘を吐くのは、語れば語る程に相手に俺の嘘を見破る武器を渡すような行為でしかない。


 故にそれっぽい事を簡潔に言って切り上げるのみだ。


 そのお陰かマリエルは俺の事を訝しんだ目で見つめてくるもののそれ以上追及してくる事もなく、静かに下がっていく。


 ふぅ、とりあえず何とかこの場を凌ぐ事ができた……。


「メイドさんと何をお話されていたのですか?」

「……いや、ちょとな。これからの事について話していただけだ」


 嘘は言っていない。そしてオリヴィアの事について話していたなどとは言える訳もない。



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 カドカワBOOKSファンタジーコンテストの読者選考が終わりましたので、一旦毎日更新は停止し、次からは他の長編作(4~5作品)と交互に更新していく予定です(*'▽')ノ

 なお近況報告(サポーター限定)にて40話まで先行配信いたします。


 カクヨムコンテストから約10か月間、休みなくコンテストが続きかなり疲れましたが走り切った達成感もその分ひとしおでございます。


 ここまでコンテスト期間中一緒に走ってくださった読者様、本当にありがとうございますっ!!(∩´∀`)∩わっしょい

 

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