第135話 驚いているのは俺も同じだ




 結局、エリザベートと婚約をさせられた事も、契約の穴を突かれた事も、カイザル陛下の方が頭脳戦では一枚上手という事なのだろう。


 これに関しては、ずっと権力の下で威張って来た今世と、現代日本で一般人として生きて来た前世の俺、そして皇帝陛下として何十年も生き延びて来た・・・・・・・カイザル陛下との差でもあるのだろう。


 まさに潜って来た死線が違うと言う事である。常に暗殺や敵の間者などから帝国及び自らの命を守って来られたカイザル陛下と俺では大人と子供程の差がそこにはあった事だろう。


 悔しいが今はその差を認めるしかない。しかしながらいつかこの狸親父に一泡吹かせてやろう……。


「……カイザル陛下がそう仰るのであれば、今だけは引きましょう」

「しかしながら、エリザベート様とあそこのクズを婚約させる理由が、我々の納得いかないものであれば、今一度抗議させていただきます」

「フン。いくらそこのゴミムシとエリザベート様を婚約させる理由があったとしても、他国に嫁がせる駒とし使った方がどう考えても有意義な使い方だと思いますがねぇ」


 そして、カイザル陛下が後ほど俺とエリザベートを婚約させる事を説明するということで反論していた者達も一応はそれで納得したようである。


 何故そこで引き下がるのか。もっと抗議しろよ! とは思うものの、こいつらも引き際を間違えたら物理的に首が飛びかねないという事をしっかりと理解しているのだろう。


 逆にいえば、こいつらとカイザル陛下との一連の流れは他の貴族たちへのアピールでもあり、一応下級貴族たちを納得させる為のモノとして利用したという風にも読み取る事ができる。


 本当に、つくづく貴族として生きていく自信が無くなってきたというか、むしろ前世の記憶が戻る前の俺はこのような空気を読み間違えたら殺されかねない世界で生きていかなければならないというのに、その生きていく術を面倒くさいという理由でサボっては遊びほうけていたのかと思うと今更なばらゾッとしてきた。


「あの……ロベルト様? 私、エリザベート様とロベルト様が婚約するという事を聞いていないんですけど……説明してもらって良いでしょうか? これでも一応私はロベルト様の婚約者なのですから……っ」


 そして、忘れていた訳ではないのだが、俺の隣にいるオリヴィアが何故か青筋を立てながらエリザベートとの婚約を問い詰めてくるではないか。


 これは何か? 嫉妬しているのか?


「……大丈夫だ。俺も今聞かされたばかりで寝耳に水だ。説明しろと言われても何も分からない。だから驚いているのは俺も同じだ」

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