第134話 頓智利かせやがって
折角現実逃避をしていたというのに、カイザル陛下の言葉で一気に現実に引き戻されてしまう。
分かっていた。
分かっていた上で目を晒していただけに過ぎない。
あの狸親父の事である。
いくら『エリザベートが嫌がるのであれば婚約の話は無効』だと言ったところで、そんな約束など何の効力を持たない事くらいは理解していた。
しかしながら、一国の皇帝ではなく、一人の娘の父親としてであれば俺の言葉はきっと届くはずだと思ってかけた言葉でもあった。
その結果はエリザベートのあの怒りに満ちた視線からも分かる通りにカイザル陛下は一国の皇帝としての判断をしたという事なのだろう。
その判断は帝国を思えばこそ間違っていないだろうし、帝国の未来を思ってこその判断なのだろ。
そしてエリザベートもまたカイザル陛下と同様に皇帝の娘として産まれた責務を果たそうとしているのだろう。
故にエリザベートの視線からは怒りや蔑みといった感情の他に強い覚悟もまた感じ取ることができる。
「はぁっ!? なんであんなゴミクズとっ!!」
「考え直してくださいっ!! アイツは確実に帝国の秘宝と謳われるエリザベート様を不幸にいたしますぞっ!!」
「エリザベート様であれば他にもっと良い使いようがある筈だっ!! 何故よりにもよってあんなクズに嫁がせる必要があるのだっ!?」
カイザル陛下によるエリザベート様の婚約者については誰にも伝えていなかったのか他の皇族の血を引くで公爵家や侯爵、伯爵の者達がエリザベート本人を心配したり、エリザベートを駒としてここで切るのは勿体なさ過ぎると各々カイザル陛下へ抗議し始める。
良いぞお前たち。もっと抗議しろ抗議しろっ! 何だったらこのパーティーを台無しにするほど暴れてしまえっ!!
「騒々しいっ!!」
しかし、カイザル陛下はたった一言で収集つかなくなり始めるこの場を治めてしまうではないか。
流石皇帝というかなんというか……。
「…………良いか? これは決定事項である。その理由を知りたい物は後ほどパーティーが終わってから指定された部屋へと来い。そこで他言無用の契約をしるした書類をサインした者だけ話してやろう。それで文句はないだろう?」
そしてカイザル陛下はそう言うと俺へと視線を向ける。
恐らくカイザル陛下自身が俺と他言無用の契約をしている以上、お俺自身がカイザル陛下の代わりにここで文句を言った奴らへ説明をしろという事なのだろう……。
まさか契約にこんな穴があったとは……。一休さんかよ……。頓智利かせやがって。
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