第130話 美し過ぎるというのも考え物



「…………好きにしろ。しかし後悔しても知らんぞ」

「はい……っ!!」


 これは負けではない。戦略的撤退である。


 ここで強引にオリヴィアの意見を否定して俺の意見を押し通した場合、逆に死亡フラグが立つ原因になりかねないと判断したが故の撤退である。


 だから俺はまだ負けてはいない……っ!!


 それに、女性相手にガミガミと一方的に自分の意見を押し通すというのは、カッコイイ悪役というよりかは途中で死ぬウザいモブというイメージが自分の中で強い。


 そんな態度、この俺様が取れる訳がないだろう。


 カッコイイ悪役というのは、女性の意見を聞く懐の深さがあるものである。


 …………正直な話し本心で言うと、俺を殺す可能性がある人物と結婚とか普通に嫌だ。


 しかし俺は、悪役としてのカッコよさが損なうのであればオリヴィアとの婚約破棄を選ばない。


 むしろ俺を殺すかもしれない女生と知りつつ婚約を継続する……普通に想像したらぞくぞくする程カッコイイまである。


 ただ一番の問題はプレヴォの事であろうが、反応するから相手も懲りずに突っかかって来るのであって無視すれば良いだろう。


 知らんけど。


「…………ふふっ」

「どうした? 急に」

「いえ、私の旦那様になる人は自らを犠牲にしてでも他者を助けるような人物であると、ギリギリで気付けたことが、この縁を切らずに維持する事ができた事が何だかうれしくって……」

「…………か、勘違いだ……」

「はい。そういう事にしておいてあげますっ」


 どうしてこうなった?


 そう思いながら俺は天井を仰ぐ。






「おい見ろよ。結局ロベルトの奴来ているぞっ」

「賞与式では姿を見なかったから今日は居ないものだと思っていたが、どうせ寝坊か何かだったんだろう? 本当にクズだな」

「皇帝陛下主催、そして帝国を護った英雄の賞与だというのに……。どうせならパーティーも辞退すれば良いものを」

「しかし、そんなロベルトに付き合わされているオリヴィア嬢も可哀そうだよな」

「あぁ、あれほどの美貌だ。もっと他に良い嫁ぎ先もあっただろうに、よりにもよってあのロベルトに目を付けられるとは」

「美し過ぎるというのも考え物だな」


 そして俺達は時間になったので二人でパーティー会場へと向かうと、早速陰口が俺の耳に入って来る。


 気にするだけ無駄だと分かっているのだが、それでも俺に向かって吐かれる悪口には変わりないので良い気分はしない。


 とりあえず悪口を呟いている奴らを軽く睨みつけてやると、奴らはバツが悪そうにその場から逃げ始める。


 聞かれて困るくらいならば本人のいる前で言わなければ良いものを……。

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