第129話 この女の口を塞いでくれ



 そして自信満々な表情で俺の返答を待っているオリヴィア。


 その表情からも自分の推理が間違っていないと確信を持っている事が窺えてくる。


 どうすれば『その推理が間違っている』という事を証明できるのかと、頭をいくら回転させても良い案が思いつかず、俺が返答に困り押し黙っている時間が只過ぎていく。


「私の意見が正しいから何も答えられない、言い訳を思いつけないから黙る事しか出来ない……という事ですよね? 沈黙は肯定と判断いたしますよ?」


 そんな俺に向かってオリヴィアはさらに詰めていく。


 これが、自分が行っている事が悪魔の証明であると理解しているのであれば、とんだ女狐ではないか……。


 しかしながら、まだ女狐の方がマシまである。


 問題は明らかにオリヴィアは『自分の推理が間違っているのであれば言い返す事が出来るはずだ』と思って投げかけているという事である。


 それであればまだ悪魔の証明であると理解したうえで聞いて来ている方が『それは悪魔の証明であるから返答の仕様がない』と逆に詰める事ができるのだが、それを理解していないのであればこのロジックを理解できない限りいくら説明しても無意味だろう。


「……逆に俺様が、オリヴィアの言う通りに行動をしたという証拠がない以上、証明もできない訳だ」

「そうですね。ですが私が述べたとおりに状況から推測することができます……っ!」


 だれかこの女の口を塞いでくれっ!! 頭が痛くなりそうだっ!!


「それがまかり通るのであれば、逆にそうでない事を視点さえ変えればいくらでも状況から説明できるのではないか? そう思う、こう思うでは、揺るぎない証拠を提示できていない以上、机上の空論の域を出ない」

「えぇ、そうですね。ですが私の推理が正しいという事は今まさに証明されています。なぜならば私が婚約期間中罵声をすれど暴力は振るわなかった。そして今現在暴力どころか以前のように罵声もしてこない。その事から本当は私に罵声を投げかける事さえ嫌だったということが証明できるのではないですか?」


 …………いやそれだから感情論であり『こうであって欲しい』という机上の空論だから証拠にはなりえないってさっき俺言った気がするんだが……?


「………………」

「そして私の答えですが、ロベルト様さえ嫌でなければ私はロベルト様との婚約を破棄することなく継続していきたいと思っています。もし婚約を破棄したいのであればロベルト様からそうお申し付けください。そうしていただければ私は身を引きます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る