第128話 悪魔の証明
今までその事に気付けなかった事を後悔しても何も変わる訳ではないと知ってはいるものの、それでも今まで何もしてこなかった事を悔やんでしまう。
おれはまだどこかこの世界の人たちが生きているのではなくゲームのキャラクターだと思っていたという事なのだろう。
この世界確かにゲームと酷似している箇所はあるものの、それでも人々は皆生きており、そしてその人たちは日々必死に生きて喜んだり悲しんだり生を謳歌しているという事は理解しているつもりだったのだが、理解しているつもり止まりだったのだろう。
「ロベルト様……本当の事を申してください。ロベルト様は本当に私の事を嫌いなのですか?」
「…………あぁ、嫌いだね。大っ嫌いだ」
そしてオリヴィアは俺に『私の事が本当に嫌いなのか?』と聞いてくるではないか。
俺は始め迷ったものの、ここが恐らく人生の分岐点あると判断した為、ここで悪役がどうのとか言っている場合じゃないと、俺はオリヴィアに向かって『大っ嫌いだ』と答える。
流石のオリヴィアもここまで言われては婚約破棄をするであろう。
全く、良い経験になった……。できれば経験したく無かったがね。
「分かりました。私は婚約破棄を致しません」
「あぁ。流石にここまで言われては婚約破棄をせざるを得ないだろう…………え? なんて言った? 俺様の聞き間違いか?」
「いえ、聞き間違いではございません。私はロベルト様との婚約破棄を致さないと申しました」
前までここに居た、気弱そうで常に俺に怯えているような雰囲気のオリヴィアはそこにはおらず、何かを決意し強い意志を目に宿しているオリヴィアが俺を真っすぐ見つめながら力強く『婚約破棄はしない』と話すではないか。
「…………どうしてだ?」
そして俺はそう言い返すので精一杯であった。
「ロベルト様、私と婚約をしたのはロレーヌ家を救う為なのでしょう? しかしながら、まだ爵位を継いでいないロベルト様が我が家を救うためにと大金を扱う事はできない。その為考えたのが私との婚約。しかしながら私の気持ちを無視した強引な婚約であり見方を変えれば金で売られた娘という解釈もされてしまいやすい状況を見越したロベルト様は、私がそういう目で見られてしまう前に『ロベルトから見染められてしまった結果、半ば強引に婚約をさせられた上に毎日暴言を吐かれる可哀そうな娘』というレッテルを貼って『親に売られた娘』というレッテルを隠したのでしょう……。そして、私の家が何とか持ち堪え、私もロベルトと婚約した可哀そうな娘というのが定着した今だからこそ、ロベルト様は役目は果たしたと婚約破棄という選択肢を私に提示させた……」
そうでしょう? と言いたげなオリヴィアなのだが、全部違っている。しかしながら違っている事を証明する事はできない……。
まさに悪魔の証明ではないかっ!!
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