第125話 警戒して当たり前

 そして家族の団欒を満喫して体力(主に精神な疲労)を回復させると、俺は家族に一声かけてから部屋を出る。


 お母様と妹弟達はまだ一緒にいたがっていたのだが、長引けば長引くほどに面倒くさくなるので、これに関しては後回しにして面倒くさくなる前に行動へ移した方が良いだろう。


 俺は部屋から出るととある部屋へと向かい、その扉へノックをする。


「俺だ」

「……どうぞっ」


 そして入室を許可されたので入った部屋の中には真っ赤なドレスを着こんだオリヴィアと、その家族がいた。


 そう、俺が向かった部屋とはオリヴィアがいる部屋であった。


 てっきりあの一件で俺とオリヴィアとの婚約は破棄されたとばかり思っていて何も確認などをしなかった俺も悪いのだが、何故嫌いな男と別れる時のデメリットが無くなっても一向に婚約を解消しようとしないのか、俺にはオリヴィアの考えている事が理解できない。


 もし理解できるのだとしたら、オリヴィアの両親がクヴィスト家に恩義を感じて娘の婚約破棄を許さなかった等か、婚約破棄をした事によってクヴィスト家からの報復を恐れて許さなかったのかくらいであろう…………いや、よくよく考えれば普通にどちらもあり得る話ではないか。


 借金を踏み倒して良いという言葉を真に受ける方がバカまである。


 それは俺が報復などはしないし恩を返す必要も無いと、そう考えているのであって『相手が知っている体』で考えれば婚約破棄をしないのは不思議に思えるのだが『それを口にして相手に伝えない限り相手は俺の考えが分からない』のである。


 であれば警戒して当たり前であろうし、恩も返そうとするだろう。


 そしてオリヴィアを含めたロレーヌ家は俺の姿を見て無言で頭を下げ続けているではないか。


「いつまでそうしているつもりだ。いい加減頭を上げろ」

「あ、ありがとうございますっ!」


 とりあえず鬱陶しいので頭を上げるように言うとオリヴィアの父親が感謝の言葉を告げつつ頭を上げ、それを見た他の家族も怯えつつも頭を上げてくれる。


「感謝など要らぬ。あと、借金の肩代わりをした事に恩を感じ、返さなければと思っているのであればその考えは即刻捨てよ。こちらは恩を返してほしくて借金の肩代わりをしたのではない。また、娘から聞いているとは思うが婚約破棄を申し出たからと言って肩代わりをした借金分を返金しろなどと攻める事も無ければその件で報復をするなどという事も無い」


 そして俺はロレーヌ家が頭を上げ終えたのを見て、話し始める。

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