第121話 反面教師



 俺がカイザル陛下との件を思い出していると、どうやら既にカイザル陛下はゴドルゴに対して詰め始めているようである。


 というかこのバカはこんな簡単なトラップに引っかかっていたのかよと思うのだが、つい先ほど俺も同じような簡単な罠に引っかかってしまっていたので、ゴドルゴを笑い飛ばすのではなく反面教師として気を付けようと思う。


 そもそもこのカイザル陛下はとんだ狸爺であるという事が分かったのでより一層警戒して接した方がいいだろう。


 恐らくゴドルゴ含めた間者を炙り出す為に複数の餌をばら撒き、その餌が罠だとバレないようにしつつ数年間、それこそ相手が安心しきって尻尾を出す程度には長い年数泳がしていたのであろう。


 まぁゴドルゴの他にも顔が青を通り越して土色にしている奴らには心の中でご愁傷様と言いつつ、せめて幼い子供がいるのであればその子たちだけでも処刑を免れればと思うのであった。





 そんなこんなでその後は衛兵たちが逃げようと暴れたりする間者たちを取り押さえたのち、何事も無かったかのように黒衣の英雄として呼ばれた俺の賞与式を進め、無事に(間者たちからすれば人生において最悪の日であった事だろう)式も終わり、俺はとある場所へと向かっていた。


「……貴方は、黒衣の英雄様ではありませんか。わざわざ僕の元まで来るという事は何か僕に用事でもあるのでしょうか? というのは自意識過剰ですかね? 僕如きに黒衣の英雄様ともあろうお方が、個人的な用事がある訳がない事くらい僕も理解していますよ。 しかしながら、だとすれば余計に黒衣の英雄様が僕の元を訪れた理由が分からなくなってきましたね」


 そう、俺が訪れたのは先程すました顔でやり過ごす事ができた間者の一人であった。


「何となく察しているのではないか? 俺様がここへ訪れたという事を。 別になぞ解きをしに来た訳ではないので話すが、お前が帝国に敵対している立場の人間であることは既に分かっている」

「…………上手く隠せていたと思っていたんですけどね」


 とりあえず長話をするつもりもないので俺はこの青年に『お前は帝国の敵側だと知っている』と告げると、青年は少しだけ驚いたような表情をした後、軽く溜息を吐いて残念そうにする。


「ゴドルゴみたいに言い訳をしないのか?」

「そこまでストレートに言われてしまってはきっと全てバレているのでしょう? ならばごねるだけ時間の無駄でしょう」


 正直な話しマップ機能で見た限り赤色に映っていただけで『敵対行動が何であるのか』までは分かっていないのだが、向こうがそう勘違いしてくれるのであれば、それをわざわざ言う必要もないだろう。

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