第120話 デマが聖王国に広まっている理由


 因みに俺がカイザル陛下から裏切者の情報を教えて貰えた理由なのだが、むしろ一方的に裏切者について話された上で『この話を聞いた以上…………分かるよね? 分からないお主では無かろう』話してきた。


 早い話が、勝手に話始めたにも関わらず『外に漏らしてはならない情報を使って逆に俺の事を帝国側にどっぷりと引き込もう』という魂胆なのだろう。


 分かりやすい古典的かつ原始的な方法。


 しかしながらだからこそ対処が難しく、そしてこの罠を抜け出す方法は『俺がこの話を聞いた事を知っている人物を殺す事』であり、言い換えるとカイザル陛下を殺すか、上辺だけは帝国側につくかの二択を取らざるを得なくなったという訳である。


 自分の命を使った賭け、故に『死』というものがその者にとって重ければ重いほどにその縛りは強力に作用する。


 しかしながら穴がないわけではない。


 正直な話し帝国に骨を埋めるつもりというか公爵という爵位を捨ててまで他国へ行くメリットがないのでカイザル陛下の話を受け入れても良いのだが、流石の俺もこのまま黙って『分かりました』というのは癪でもあった。


 その為カイザル陛下へ『ここで俺が口約束をした所で裏切るかもしれませんよ?』とジャブを放つと、カイザル陛下は『どっちに転んでもお主が帝国を裏切った時が、帝国が終わる時には変わりない。であれば帝国の内側を見せて秘密を共有している仲間意識を芽生えさせた方が、国が存続していく確率は上がると言うものであろう? 帝国が残るのであれば、もし裏切られて他国へ情報を売られる事くらい安いものだ』と返されてしまっては何も言い返せないではないか。


 カイザル陛下は俺の力がどこまでのモノなのかは知らないが、現時点で『俺一人で帝国を堕とせるだけの力を持っている』という判断をしており、その為に文字通り自分の命を賭けて俺の懐へ潜り込もうとしているのだという意思が伝わってくる。


「まぁ、だからと言って有象無象達が裏切っている事についてはしっかりと処罰していくつもりではある」


 そう言ってニヒルに笑って見せるカイザル陛下は、俺の目にはある意味で最高にカッコイイ悪役に見えていた。


 それは、悪役を目指す者として断る理由も無くなった瞬間でもあった。


「因みにゴドルゴよ。何故聖王国側が『我が帝国が小麦産業に力を数年のスパンで徐々に強めていく』というデマ・・が伝わっておるのだ? このデマはお主に対してしか話していないデマの内容であったのだが……このデマが聖王国に広まっている理由、どう説明をする?」


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