第119話 『できる』側の人間


「ど、どういう事ですかっ!? 何故調べもせずにこの私が帝国の情報を他国へ売っていたという事が分かるのですかっ!? いくらカイザル陛下と言えどもこれはあまりにも横暴ではございませんかっ!! 誰に私が間者であるという嘘をカイザル陛下に伝えたのか分かりませんが、どうかその者の意見だけを聞くのではなく私の意見も聞いただき、その上で公平な判断をしていただきたいっ!! いままで私がこの帝国にどれだけ心身ともに注いで来たか分からないカイザル陛下ではないでしょうっ!? その事を思い出してくださいっ!!」


 そしてカイザル陛下は確固たる証拠を持っていると言うのだが、当然ゴドルゴは自分と家族、下手したら親族の命がかかっている訳なのでそう簡単に『はいそうでう』と認める事もできる訳も無く、食い下がる。


「お前我が言った『確固たる証拠がある』という言葉を理解できぬのか? ゴドルゴ、お主だけではない。ここにいる全員へ数年前から罠を仕掛けていたのだよ。嘆かわしい事に我が帝国の情報を他国に売っている者はゴドルゴ意外にもいる事が、特にゴドルゴ、お主に関してはあまりにも節操が無さ過ぎて隠す気が無いのかと思う程であった」


 カイザル陛下がそう言うと周囲へ鋭い眼光を向けて見つめると、顔面蒼白になっていく貴族たちがちらほらと窺えて来る。


 恐らくその者たちはカイザル陛下の態度から『逃げられない』と悟ったのだろう。


 しかしながらそこで表情に出てしまうのは所詮三流。むしろ、だからこそ簡単にバレてしまうような雑魚でしかない。


 逆に、後方右側に佇んでいる澄ました野郎は『できる』側の人間なのであろう。


 内心の焦りを表情に一切出さず、この場からいかに逃げるかを考えている事が、彼の細かな動きや視線から窺えて来る。


 しかしそれらも、彼が帝国を裏切っているという情報を事前に知りえていなければ気付く事はできないほどに、さりげない仕草である。さすがだと敵ながら称賛しても良いレベルの人物だろう。


 そしておそらく皇帝陛下は彼が裏切っている事に気付けていない可能性は非常に高いのでは? と思うのだが、彼からすれば皇帝陛下が帝国という獅子に虫下しを飲まして身中の虫を炙り出そうとしている時点でバレていなかろうともこれ以上はリスクが高すぎると判断してスッパリと関係を切り他国へ亡命するつもりなのだろう。


 そして何故俺が、彼の裏切りに気付いたかというと、マップ機能で確認した時に彼の色が赤色に染まっているからであり、そして皇帝陛下が気付けていない理由は事前に聞かされていた裏切者の名前の中にいなかったからである。

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