第118話 獅子身中の虫



 まぁそんな訳わるわけがないのだが。


「おぉ、このお方があの黒衣の英雄ですか……」

「しかし、いったいこれほどの実力者、いままで噂すら聞いた事が無い……。あのスタンピードを止めたというのも信憑性に欠ける……」

「だが皇帝陛下の元にいるという事は、この者の実力は間違いないという事では?」


 そんな俺の姿を見て貴族達は各々好き勝手にベラベラと小声で話し始める。


 というかいくら小声とはいえ俺の元まで聞こえてくるという事は、当然カイザル陛下も聞こえているという訳で……その事に気付いていないのだろうか?


 それか、もしかしたらあえて聞こえる位の音量で話す事によってカイザル陛下へ黒衣の英雄という存在に対して信憑性が無く、信用できかねるという旨を間接的に進言しているのだろう。


 俺からすればどちらでも良いのだが、カイザル陛下からすればこの問題をどうにかしなければ立つ瀬がないので、いったいこれからそう立ち回るのだろうかと、少しばかり興味が湧いて来る。


「皆の者静まれ」


 様々な憶測が聞こえてくる中、カイザル陛下の一言でシンと静まる。


「お主たちが黒衣の英雄に対して懐疑的になるのも仕方なかろう。しかしながらこの黒衣の英雄は我の懐刀であり、隠し持つからこそその効力を最大限に発揮できるというものだ。現に今回のスタンピードは現時点で既に色々と不自然な箇所がいくつも出てきており、他国ないし何らかの組織から帝国への攻撃であった可能性が非常に高い可能性が出て来ておる。もし黒衣の英雄の存在を隠していなかった場合、もしかしたら更に大きな規模でスタンピードを仕掛けられていた可能性もあり、隠していたからこそ敵側の作戦を狂わせ、その攻撃を防ぐことができた。そして、敵を騙すにはまずは味方からとも言うしなぁ。のう、ゴドルゴ? お主が内通者としてこそこそと動き、他国へ情報を売り渡し小金稼ぎをしている事は既に調べはついておるぞ?」


 貴族達が話す事を止めて静かにったことを確認してからカイザル陛下は俺の存在を今まで隠していた事を説明し始めると共に、獅子身中の虫である内通者を名指しで指摘するではないか。


「わ、私はそんな事などしておりませんっ!! 誰かに騙されているですっ!! カイザル陛下っ!! 今一度しっかり調べ直してくださいっ!! なんなら今すぐ私の家を隅々まで調べていただいても構いませんっ!!」

「のう、ゴドルゴよ。我が何の証拠も無くお前を名指しで内通者であるとこの場で話す訳が無かろう? 確固たる証拠が当然握っておるのでお主の家を調べる必要も無い」

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