第115話 エリザベート様ご乱心っ!



 という事は最初からすべて見ていたという事という訳で……。


「…………なさい」

「……なんでしょうか?」

「忘れなさいっ!!」

「え? 嫌ですよ。いつも真面目一辺倒で勉強か修練しかしないし、話をしても堅い話しかせず、年頃の女の子なのに浮いた話の一つもしないエリザベート様の、初めて見た乙女な一面ですもの。忘れるどころか脳内に焼き付けますよ」

「…………」


 わたくしの恥ずかしい姿を忘れて欲しいとアンナにお願いをしたのだけれども、当のアンナはどこ吹く風。むしろ忘れないように脳内に焼き付けると言うではないか。


 これは、話し合いで何とかできないのであれば暴力で解決するしかないようである。


 本来わたくしは自分の思い通りにならないからと暴力を行使するような者達が嫌いであるのだが、今回ばかりは仕方がないだろうし、黒衣の英雄様に万が一この件の事が耳に入ってしまったとしてもしっかりと理由を言えば分かってくれる事だろう。


「エリザベート様? 無言で魔術を詠唱しようとしてますが、その理由をお聞かせ頂けますか?」

「頭に強い衝撃を与えると記憶が無くなる可能性があるといつか読んだ書物に書いていた気がするので、いまその知識を実践して証明して見せる時だと思いましたの。大丈夫ですわ。痛いのは一瞬ですの。あら、どうして逃げるんですのっ!! お待ちなさいっ!!」

「エリザベート様ご乱心っ!! エリザベート様ご乱心っ!! 衛兵っ!! 衛兵っ!!」


 しかしアンナはわたくしの魔術を喰らうのが嫌なのか逃げまどいながら言うに事を欠いてわたくしの事をご乱心だと叫び衛兵を呼び寄せるではないか。


「衛兵どいてっ!! ソイツ殺せないっ!!」


 抗うのであれば衛兵であろうとも関係ない。一緒に成敗してあげますわ。


 そしてわたくしは帝城内を走り回り、衛兵を掻い潜りつつアンナへ魔術を放ちながら、そう言えば黒衣の英雄様の声はどこかで一度聞いたことがあるような気がするなと思うのであった。



◆主人公side



「……はぁ、面倒くさい」


 それが俺の抱いている感情であった。


 賞与だのなんだの貰ったところでどうなるというのか。

 

 正体を隠して活動をしているので、賞与された所で実家が潤う等というメリットすら無い。


 ただ皇帝陛下から賞与をされるだけ。


 これが平民であれば一代限りの騎士爵を与えられるのであろうが、俺は次期公爵家当主なのでそのうま味も無いに等しい。


 そう、ただただ面倒くさいだけの式でしかないのだ。


 しかもこの後にパーティーも控えているわけで、そのパーティーも面倒くさい要員の一つである。


 できる事ならばお家に帰りたい。

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