第110話 聞いてないですわぁぁぁあああああああっ!!



「ちょ、待って──」

「では善は急げともいうし、早速婚約の手続きをしてこようっ!! 我が娘に関しては安心してほしい。しっかりと了承を得てくると断言しようっ!!」


 そしてカイザル陛下は嬉し涙(多分)を拭いながらキリっとした表情をすると、俺の言葉を遮って冒険者ギルドから出て行くではないか。


「…………何見てんだ?」

「いえ、大変そうだな……と。それとロベルト様の困っている表情を見られるのは恐らく今日くらいだと思ったので目に焼き付けておこうかと」

「……良い性格してんな」

「一応俺も冒険者ギルドのギルドマスターになるまではそれなりの死線は潜ってきてますからなぁ。肝だけは座っているさ」

「…………ちっ、できる事ならばお前にこの立場を譲ってやりたいくらいだ……っ」

「残念ながら俺には既に愛している妻がいるからな……新たに婚約しようものなら殺されかねないんだ」

「……クソが」


 ガーランドはそういうと残念そうに肩をすくめるのだが、その声音と表情はまったく残念そうには思えない。


 ……冒険者ギルドを燃やしてやろうか。


 そう薄っすらと思いながら俺は重い足取りで冒険者ギルドから出るのであった。



◆カイザル陛下の娘(エリザベート・フォン・グラデウス)side



「き、」

「……き?」

「聞いてないですわぁぁぁあああああああっ!!」

「今初めて言ったからのう」

「ぃぃぃいいいいいやぁぁぁぁぁあああっ!!」


 お父様から婚約の相手が決まったとの事で、いったいどんな殿方なのかしらと若干浮き足立った足取りで向かってみれば、お父様が口にした婚約者の名前はあのロベルトであると言うではないか。


 その名前を聞いた瞬間わたくしは思わず拒否反応から金切り声をあげてしまう。


「そんなに嫌なのか……?」

「嫌に決まっておりますわっ!! よりにもよってあのクズ男が相手とかあり得ませんわっ!! というかあのクズ男にはオリヴィアという婚約者が既におりますわっ!! それは顔も見たくない程嫌いな相手の第二夫人になれと言うんですのっ!?」

「まぁ、そうなるかのう」

「…ぎぃぃぃぃいいいいいやぁぁぁああああああああっ!! そんな事あり得ませんわぁぁあああああああああっ!!」


 しかもお父様は言うに事を欠いて第二夫人になれと言うではないか。

 

 あのクズ男の妻。しかも第一夫人ですらなく第二夫人。


 想像しただけでもう発狂しそうな肩書である。


 というか実際に発狂してしまった。


「お……お父様……っ!!」

「なんだ? ロベルトはああ見えてかなり良い奴で出来る奴だぞ?」

「いったいどんな弱みを握られたんですの? それとも莫大な金額でこの婚約を売ったんですのっ?」

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