第109話 我が娘は幸せ者だっ!!


「……ほう、条件とな?」


 しかしながらだからと言ってこのままお互い不幸にしかならない事が確定している結婚と知りつつ『はい分かりました』とこの婚約を受け入れる事はできない為、不敬罪になる事を覚悟の上で、今回カイザル陛下の娘との婚約に関して条件を提示させて貰う事にする。


 カイザル陛下からしてもこの俺を、自分の娘という外交にも強く出れるカードを切ってまで他国に逃がしたくはないと思えるくらいには大きな魚であるという認識をしているのであれば、ここで『不敬罪だ』と切り捨てようとする事はしないだろうと踏んでの事なのだが、それでも絶対にそうだと断言できない以上はやり少しばかり緊張してしまう。


 とうかそもそも、俺は同じ学園に通いながらカイザル陛下の娘の名前すら憶えていないくらいには興味が無いのである。


 なんとかカイザル陛下の娘名前を出さずにここまで『名前は知っている体』を貫きつつここまで会話をしてきたのだが、ここで『娘の名前を言ってみろ』と、某世紀末の某神拳に出てくる某四兄弟の三男のような事を聞かれると間違いなく終わる自身しかない。


 某格闘ゲームではこのキャラクターだけ一撃必殺技なのに選択肢が出て正しい名前を選択されると相手を殺す事ができないという致命的な欠陥を持っているというのに……。


「はいそうです。その条件を飲めないのであれば、申し訳ないがいくらカイザル陛下の頼みとはいえ受け入れる事はできません」

「…………その条件とやらを申してみよ……っ」

「それは、娘さんの承諾を得る事です。それが出来ないのであれば俺は今回の婚約を受け入れる事はできません」


 言い切った。


 口にしてしまった以上後は天命を待つのみである。


 ちなみに、この条件を聞いて皇帝陛下が俺や俺の家族、そして俺の大切な人達に危害を加えようとするのであれば問答無用で皇帝陛下を切り伏せてみせる覚悟は既にできている。


「…………」

「…………」


 どれだけの時間が経っただろうか。


 まだ十分も経っていないにも関わらずそれ以上の時間が流れたよな錯覚をしてしまうくらいには空気が重く感じてしまう。


「……我が娘は幸せ者だな……っ!」

「……は?」


 そしてやっとクソジジイ……ではなくて皇帝陛下が口を開いたと思ったら『娘は幸せ者だ』などと言い始めるではないか。


 皇帝陛下もついにボケ始めたのか? と思ってしまうのも仕方が無い事だろう。


「娘の事を考えてくれているとは思っておったのだがまさかここまで……皇帝陛下である我に意見をしてでも娘の気持ちを優先させる、それ程までに大切に想っている異性が身近にいるというのは、我が娘は幸せ者だっ!! 良かろうっ!! お主の覚悟、しかと受け取ったぞっ!! 後は我に任せるがよいっ!!」

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