第107話 覚悟はしっかりと持っておる



「しかしながら、人に対して一度抱いた感情というものはそう簡単には変わらないものでございます。いくら相手の性格が自分と違うと分かったとしても今まで抱いていたマイナス的な感情が全て無くなる訳でもないのです。娘さんの幸せを願うのであれば俺ではなく、他の、ちゃんと娘さんの事を思うことができ、娘さんも心から信頼できる相手を選んであげるべきなのではないでしょうか?」


 しかしここで折れてしまってはこの流れのままに俺はカイザル陛下の娘と間違いなく婚約させられるだろうし、皇族との婚約であれば俺の両親は断る事も出来ない上に、寧ろ喜ぶ可能性もある。


 なので無礼と捉えられてしまうかもしれないのだが、ここはビシッと言うべきところであろう。


「なるほど。であれば今問題であるのは我が娘が抱くロベルトへの嫌悪感たけという事かの。むしろそこさえ取っ払う事ができれば問題ないという事でもあろう。お主は我が思っている以上に娘の幸せを考えてくれている事が分かっただけでも今回わざわざこうしてギルドまで出向き黒衣の英雄と話す機会を作った甲斐があったというものだな。あぁ、因みに娘に関しては心配しなくても大丈夫そうだぞ? その件に関しては安心して貰って大丈夫だ」

「…………え? いや、え?」

「何、後日開催するパーティーに参加して貰えれば我の言っている事も理解できよう。いやぁ、実に楽しみだのう。因みに、お主と今現在婚約しているロレーヌ家の娘、オリヴィアなのじゃが正直その娘を第一夫人にして我が娘は第二夫人にしても全く問題ない。むしろお主への首輪は強固であればあるほど良い。であれば結婚する相手は帝国の娘であれば何人でも囲ってもらって良い、というかそもそも一夫多妻制なのだが、他国の娘を娶られるくらいであれば先に我が娘を牽制としてお主の元に娶らせる、そこにオリヴィア嬢もいるとなればお主の、ロベルトとしての外聞が悪いというのは好都合であり、流石に他国の貴族はお主へ婚約の話を持って来る事は無かろうて」


 カイザル陛下はそう言うと『ふぉっふぉっふぉっ』と意地悪な表情を隠そうともせずに笑うではないか。


 おそらく、というか間違いなくこの狸親父は娘の幸せよりも黒衣の英雄と話題沸騰中の俺を他国に奪われる前に帝国から逃げ出さないように鎖を付けたいのだろう。


「あぁ、勘違いしないで欲しいのだが、勿論娘の幸せは願っておる。けれども、お主もそうだと思うのだがそれ以上に貴族や皇族というのは結婚すら戦略に組み込むという事を覚悟して持っておるし、娘とてその覚悟はしっかりと持っておる。当然、我もだ」

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