第96話 経験はまだ無い



「……うん?」


 そういうダークエルフの美少女は俺の顔をキラキラと輝いた目で見つめてくるではないか。


 これは、やはり直感の通り『スルー』が正解であったようである。


 変に会話というボールを投げてしまったが故に俺は相手に『そこを切っ掛けにして喋り始めるチャンス』を与えてしまったのだろう。


 ようは飢えた狼の前で餌も無いのに焼肉の匂いだけ嗅がせてしまた状態が今の俺だろう。


 差し出せる肉は己のみ。


「ほう、流石俺の妹だ。この者を我らが主と認めたか」

「はい。このお方であれば、我らが主として遜色ないかと……。むしろ我々の方がこのお方の望む働きをする事ができるかどうか心配にさえ思えてくる程のお方。今後この方以上の者が現れるような事はまずないでしょう。ここで出会えたことが、我らが信仰する神のお告げなのでしょう……っ」

「あぁ、そうだな。俺も出会った瞬間に運命のようなものを感じたから間違いないだろう……っ」


 さて、どうしたものかと悩んでいるとこのダークエルフの兄? であろう人物。俺がこの場所に来て最初に助けた者がどうやら俺が渡したエリクサーを使って回復し終えて戻って来たようである。


 どうする? 今のうちに逃げるか? 逃げるとしてもどこに?


 そう考えた時に俺はハッとする。


 果たして俺の尊敬するカッコいい悪役達はこのような状況になった時に『逃げる』という選択肢を取るのだろうか?


 答えは否である。


 俺との会話からこの者達が泣く程の過去を背負ってここまで生きてきたというバックボーンを抱えているというのは間違いないだろう。


 そんな者達を俺の尊敬するカッコいい悪役達は間違いなく、見捨てることなく仲間に加えた筈である。


「フム、貴様等の話を聞くに俺様の配下になりたいという事で間違いないか?」

「はい、むしろ私達姉妹の事は今日こんにちより主様の所有物でございます」

「俺達姉妹、主様の為であればなんだってやってみせましょう」


 なので俺は覚悟を決めてこの二人を配下に加える事にする。


 …………うん? また姉妹と聞こえたのだが気のせいだろうか? 妹は俺の知っているダークエルフのイメージ通り巨乳なのだが兄? の方はまな板であるし、そう見ても美少年にしか見えないし、声もハスキーな声でどう見ても男性なんだが……?


「申し訳ない。俺は妹と違って胸は大きくなりませんでしたが、ですが無い分夜の方は精一杯務めさせていただくので……っ!! 経験はまだ無いが、主様を必ずや満足させてみせると誓おうっ!!」

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